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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#80
2020.01

農からさぐる、地域の文化

京都・大原2 「入りびと」たちの試み
2)農家として土地を捉える
「音吹畑」高田潤一朗さん(2)

そもそも、高田さんが農業をはじめたきっかけは、畑で食べたルッコラだった。

———旅しているときに、青森県の六ケ所村に滞在してたことがあって。そこに『六ケ所村ラプソディー』を撮られてたドキュメンタリー作家の鎌仲ひとみ先生がいらして、一緒に滞在させてもらったんです。そこで、ルッコラを畑で食べたんですが、その時の感動が忘れられなくて。草まみれのところに生えてたんですよ。ルッコラとは思わず、雑草と思っていたんです。それが美味しくて力強くて。それまでは野菜って、スーパーに並んでるのしか見たことなかったけど、実は種まきするところから花咲くところ、それから種に戻るところまで一生のステージがあって、すごく美しいなと思って。

その思いを原点に、多くの畑を手がけるなかで、日々感じているのは、畑一枚一枚に宿る個性である。

———小さな畑で隣同士なのに、全然性質が違うんです。野菜のできや、向いている作物も異なる。この畑を耕してきた、おじいちゃんおばあちゃんから、さらにまたその前のおじいちゃんおばあちゃんから受け継いできた遺伝子みたいなのが、畑一枚一枚違っていたりして。小さい畑隣同士やのに全然性質違うな、っていうのがしょっちゅうあるんですよ。ひょっとして、僕らが年老いてから、所有者の息子さんがやりたいってことがあるかもしれない。そう考えると、僕らはたまたま畑をリレーする、このタイミングに関わってるだけっていうふうに見ることもできますね。農家は皆同じようなこと思ってるんじゃないのかな。借りてるから、余計にそう思うのかもしれないですけど。

大原というこぢんまりした地域のなかにも、細分化された畑のテロワール(*)があるようだ。大原は8つの地区に分かれるが、実際、大原はエリアごとに、採れる作物が違うなど、個性豊かだ。

———それぞれの村に立ち位置や位があり、誇りを持っておられます。大原は高野川を挟んで東と西で、全然土質も違います。西のほうは比叡山の肥沃な土砂が流入してきて米がうまいとか。あとは、そっちの谷はずっと雪ばっかりで真っ暗で洗濯もん乾かんな(笑)、とか。祭りのときの歩く順列で、本来はうちの町内が先に歩くはずやのに、別の町内が追い越していったとか、この狭さで。

前編でもふれたように、大原は全く田舎ではない。自分の住むところに誇りを持ち、歴史をつなぐことを重んじる。ある意味、京都以上に京都らしいまちかもしれない。大原の人口は2,000人ほど。そこに、高田さんが住むようになった約10年のあいだで、移住したのは20戸から30戸くらいという。しかし、住人は、もともとの住人か移住者かということに加えて、世代や職業、ほんとうにさまざまで、意思疎通もなかなかそう簡単ではない。

———大原は京都中心部に通勤できる距離にあります。ある意味、中途半端というか、たとえば過疎地にぽんと、若くて面白いひとが入って来て、そのひとがハブになり、どんどん移住者が集まり、村が変わっていく……。そんなストーリーは、大原では成り立たないんです。

2,000人という数は、なかなか一枚岩にはなりにくい。元からの住民のなかでも、移住者と積極的にかかわり、大原を変えていって、という前向きなひともいれば、移住者にあまり関心を持たない場合もある。その折り合いをどうやってつけるのか、高田さんはここ数年、その試みをずっと続けている。ここに住み、畑をやっているなかで、土地の共同体とどうかかわりを持ち、地域をつないでいくかということを考え続けているのだ。

最近では、京都大原里づくり協会が発行しているフリーペーパー『大原草紙』でページをもらって、連載を始めた。地主、新規就農者、移住者など、大原に住むさまざまな境遇の人々の意見を聞くことで、お互いの距離を縮めようと考えたのである。また、大原の歴史を研究している大原工房・上田寿一さんの話を聞く会も主催している。そうして、大原に住む人元からの住民、移住者問わず、ひと同士を繋げたいという思いを少しずつかたちにしているのだ。

———今せっかく、(大原を)農業で外のひとが見てくれているから、その価値を、できれば僕らだけでやるんじゃなくて、みんなで発信していけるようになっていけばと思うんです。

高田さんの作業場では、度々飲み会が開催される。そこでは地元の人と移住者がいっしょになって、文句や愚痴から深い話まで、さまざまな話が出てきて、個人個人の面白さ、それぞれの暮らしにある背景が露わになる。この飲み会が案外重要なのだという。高田さんが『大原草紙』の連載ページに書いているように、結局最後は「人間関係があってこそ」なのだ。

*テロワール……その土地の風土によって、ワインやコーヒー、茶などの品種の特徴を指す言葉。土地を意味するフランス語「terre」から派生した。特にワインにおいては、ブドウの生育が環境で大きく左右されるころから、「テロワール」を語られることが多い。地方や地区、場合によっては畑の違いも語られる。

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近所のひととの宴会場にもなる、高田さんの作業場。元は◯◯◯工場だった / 壁面の錆、道具類とお子さんが描いた絵が現代アートに見える / 畑ではハーブや花も栽培している。「今はちょっと種類が少ないですが、もっと色とりどりです」と高田さん。奥さんの深幸さんがブレンドしている。音吹ブレンド、里山ブレンドなど、音吹畑のサイトで購入できる

近所のひととの宴会場にもなる、高田さんの作業場。元は工務店が部材を加工する作業場だった / 壁面の錆、道具類とお子さんが描いた絵が現代アートに見える / 畑ではハーブや花も栽培している。「今はちょっと種類が少ないですが、もっと色とりどりです」と高田さん。奥さんの深幸さんがブレンドしている。音吹ブレンド、里山ブレンドなど、音吹畑のサイトで購入できる