アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#80
2020.01

農からさぐる、地域の文化

京都・大原2 「入りびと」たちの試み
3)自分自身が小さな変化に
「ツキヒホシ」山本真琴さん

寂光院への参道沿いに、移住者の山本真琴さんが営む古道具屋「ツキヒホシ」がある。小さな滝がある小川のほとり、秋には紅葉が色づく、絵に描いたようなロケーションである。

店に並ぶのは、野菜や果物を入れるのにちょうどいい竹編の籠や、味わい深い表情の豆皿など、暮らしに寄り添うものである。山本さんはディスプレイを工夫して、時には壊れているところを直したりしながら、古いものに命を吹き込み、次の使い手へとつなげていく。

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まさに「絵に描いたような」ロケーション。寂光院のすぐ近く / 今の暮らしに無理なくなじむ古道具やデッドストックが並ぶ。椅子の座面の張り替えなども楽しみながら自身で手がける / 山本真琴さん。職住隣接で店を営む

まさに「絵に描いたような」ロケーション。寂光院のすぐ近く / 今の暮らしに無理なくなじむ古道具やデッドストックが並ぶ。椅子の座面の張り替えなども楽しみながら自身で手がける / 山本真琴さん。職住隣接で店を営む

山本さんの住まいはツキヒホシの隣にある大きな家だ。京都市北区から、大原に引っ越してきたのは2014年。

———住んでいた社宅は賃貸年数が決まっていたので、どこに住みたいだろうというのはずっと考えていたんですけど、そんな時に3.11(東日本大震災)が起こったのです。「自分自身がどういう暮らしがしたいのか」ということを、すごく突きつけられた気がして。その時期は、大原が好きで、週末によく「わっぱ堂」さんに行ってご飯を食べたりしていました。こういうところで、土に近い暮らしをしながら、自分たちが食べるものに自覚的になっていきたいという気持ちがありました。

その時、運よく売りに出ていたたまたまネットに出ていた物件が、現在の住まいだ。ちなみに、大原で借りられる物件は口コミがほとんどで、ネットで物件が見つけるのは珍しい、とのこと。「一目ぼれ」したという築100年を超える古民家には、店舗として利用できる “離れ” がついていた。

———こんなことがあっていいんでしょうか、と。元はうどん屋さんだったんですけれど、こんなにいい場所で、滝もすぐ近くにあって紅葉も綺麗で、なにも使わないのはもったいないと思って、そこから気がつけば古道具屋さんをしていました。

物件の購入を希望してから、交渉には時間がかかった。元の持ち主の方は代々400年以上、大原に住んでいたというので、手放すのは並ならぬ思いがあったのだろう。そもそも大原のひとはあんまり家を売りたがらないし貸したがらない傾向にあるという。

———やっぱり地域のルールを守らない方だと、後々周りの方が困ったり、あとで売ったひとが周りから何か言われたりっていうこともあるみたいですし。大原の空き家は、どこかの富裕層が買って、その後は誰も住まないままっていうのが多くて。関係ないと言われれば関係ないですけど、やっぱり気になりますね。

高齢化で空き家が増えていく一方で、ここ数年は、移住者も増えてきている。山本さんのお子さんは現在小学3年生だが、7人いる同学年の子どもは、ほとんどが移住者となったそうだ近所には京都府立植物園の副園長だった方、能楽師の方、ニューヨークでメイクアップアーティストをしていた方や、林業に携わり森にとても詳しい方など、さまざまな方面で活躍している方が移住して来ている。2017年に移住してきた写真スタジオ「あかつき写房」の本田優生さんとは、コラボレーションして撮影会を、ツキヒホシで実施した。

———(移住者は)大原に住みたいという強い気持ちがあるからか、独特な感性や主体的な思考のある魅力的なひとばかり。そういうひとが点々と増えていって、その「点」の力でもって大原の魅力が底上げされることにつながったらいいなっていう気持ちがあります。

「大原のために移住者同士でまとまって何かをやりたい、というよりは、個々がそれぞれの想いをかたちにしていくことで、結果的に地域の活性化につながるなら嬉しいです」と山本さんはいう。

山本さんの店には地域のひととつながりたいと思っている移住者が「移住してきたんです」と訪れることが多い。山本さんは、そうやって訪れる移住者を友人たちとの”ご飯会”に招くこともあるという。ご飯会は「点と点がつながる」小さなきっかけともなっている。季節の野菜や旬の美味しいものを囲みながら、語り合い、心地よいひと時を過ごす。

———大原の何かを変えたいっていうのはちょっとおこがましくて言えないけれど、自分が”こうありたい”っていう暮らしをすることが何かに結びついていくなら、うれしい変化がいつかあるかもしれない。移住者の方々との交流は、単純に楽しいからやっているだけなんですけど、それぞれに面白い活動や仕事をしてらっしゃるので、大原のあちこちで芽吹いていく”新しい変化”を見せてもらうことがよくあります。これからも、ゆるく楽しくつながっていきたいです。 

日常のなかで暮らしの楽しみを、隣人たちと共有していくことは、いずれ地域を良くしていくことにつながっていくかもしれない。食事を介したコミュニケーションは、山本さんの「こうありたい暮らし」を実現しながら、まるで家族や友人のように、温かくて優しい、人と人との関係性を生み出しているようだ。

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ライトで照らされているのがあかつき写房の湿板写真。アンティークのような不思議な味わい / 家の軒先に柿を吊るす。椎茸も育てるなど、大原に来て土にふれる機会が増えた / できるだけ元を生かして改装したご自宅 / 庭や近所に生えているグリーンや実ものなどを生かした雑貨も

ライトで照らされているのがあかつき写房の湿板写真。アンティークのような不思議な味わい / 家の軒先に柿を吊るす。椎茸も栽培するなど、大原に来て土にふれる機会が増えた / できるだけ元を生かして改装したご自宅 / 庭や近所に生えているグリーンや実ものなどを生かした雑貨も