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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#80
2020.01

農からさぐる、地域の文化

京都・大原2 「入りびと」たちの試み
4)農家と料理人をかねる
「わっぱ堂」細江聡さん(1)

ツキヒホシから歩いて5分。車がやっと1台通れるくらいの細い道沿いに、古民家を改装した「農家レストラン わっぱ堂」がある。この店の主人は、細江聡さん。レストランの目の前に広がる畑を耕しながら、農家と料理人という二足の草鞋で活動している。

細江さんは岐阜の下呂小坂出身。「何もない山の中」で生まれ育ったという。高校卒業後、北海道の酪農大学に入学。大学生の頃に出会った奥さんと、将来飲食店をやろうと、札幌の中華料理店、名古屋のイタリアンで修行を積んだ後、京都にやってきた。

細江聡さん。「わっぱ堂」は地元の設計事務所「ヴァニラリーフ」が手がけた

細江聡さん。わっぱ堂の内装は地元の設計事務所「ヴァニラリーフ」が手がけた

———僕らにとっては名古屋は都会だったんです。それで生活のリズムが狂ってきたというか、逃げるように京都に来たんですよ。大原にカミさんの実家があったので。京都に来たら和食修行をしたいと思い、友達に紹介してもらって、祇園の割烹に行っていました。5年経ったら、自分の実家がある高山のほうで居酒屋をしようと思ったんですけど、その頃1人目の子どもができて、今度はそこを中心に考えていくようになった。大原は「里の駅」ができて、新規就農者がどんどん入ってくるタイミング。義母に「あんたも大原で農業せえへんか」って言われて、思い切って大原にきたんです。

そこから、細江さんの大原での農業が始まった。本来なら、大原はよそから来たひとがすんなり畑や家を借りたり、商売を始められるところではない。その点、細江さんは恵まれていた。大原に住んでいる義父の名前で畑を借りられたし、義理の両親が持っている土地でレストランも始めることができた。また、大原に若手の新規就農者が増えていたことも、プラスに働いた。

———僕が大原に来て、農業に入ったタイミングは、同世代と重なっていたんですね。まわりに5、6人(同じような境遇のひとが)いた。音吹畑の高田くんは、少し若いですけど。共通点としては新規就農者で、しかも大原が地元ではないということ、みんな無農薬で野菜つくっていることでした。

細江さんの同世代で結成したのが「オーハラーボ」である。「ヴィレッジ・トラスト・つくだ農園」の渡辺雄人さんがリーダーとなり、「音吹畑」「わっぱ堂」「山本有機農園(サトリキ農園)」「藤柳」「オーガニックファームこうや」の6つの農家が参加した。大原の有機農業における、いわば「第2世代」の始まりである。

———当時、地元のひとたちには「大原で農業で飯なんか食っていけんよ。食えるんだったら自分の息子にさせてるし」とか「しかも農薬も使わないんでしょ、そんなん無理だって」とか言われていました。でも、みんなだんだんスキルアップして、借りている畑を上手に綺麗に使うようになってきて、地主さんからの信頼も得て、次あそこもやってみるか、と(自分たちが手がける)農地が広がっていったのがこの10年間の動きだったんです。だから(オーハラーボの)みんなは、ある程度今は農地を持っています。なんとかそこで、上手く回せばお金ができるぐらいには。

農業はそもそも不安定なところがある。季節の作物は、1年に1回しかつくるチャンスがないし、経験を次の年に生かそうとしても、毎年、天候などによって状況が変わる。そんな厳しい農業を、新たに始める若手が「オーハラーボ」という会を立ち上げたのは、とても重要なことだっただろう。チームとなることで、情報共有してモチベーションを保ち、外部に若手有機農業者の存在をアピールできた。

細江さんが、レストラン「わっぱ堂」を開店したのは、農業を始めてから1年後のこと。農業を始めたことで、どんな料理を出すかについて、おのずと方向が決まっていった。

———やっぱりその土地に行ったらその土地のものを食べたいんだな、と思うできごとがあって。それで、わっぱ堂は大原で、自分や仲間がつくった野菜と、大原の鶏や卵、川魚、春は山菜などを使って料理をつくろうと。そう思ってからは、迷いがなくなって、気持ちが楽でしたね。欲しい野菜を自分でつくればいいんだ、って。自分でつくった野菜を使ってお店やりたいと思ったから農業を始めた部分もあるので、最初からつながってるんですよね。

まちなかのシェフで、野菜をつくるところから自分で手がけたいひとは多いが、物理的な距離があって難しい。大原で農業を始めることで、他のひとが真似しづらいスタイルで、レストランすることが叶ったのだ。2019年は、畑とレストランそれぞれに、スタッフもついた。今後の展開としては、料理一皿の完成度や野菜のクオリティ高めることに、時間を費やしていきたいそうだ。

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細江さんの妻、◯◯さん(細江さん:奥さんの名前を教えてください)は接客担当 / 目の前の畑などで、その日採れた野菜を中心にコースメニューを組み立てる / 切妻屋根の風情ある外観 / 古民家の心地よさを生かした店内 / 大原に長くいたフランス人が戸外につくってくれたスペース

細江さんの妻、香代さんは接客担当 / 目の前の畑などで、その日採れた野菜を中心にコースメニューを組み立てる / 切妻屋根の風情ある外観 / 古民家の心地よさを生かした店内 / 大原に長くいたフランス人が戸外につくってくれたスペース