アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#80
2020.01

農からさぐる、地域の文化

京都・大原2 「入りびと」たちの試み
1)顔が見える農を営む
「音吹畑」高田潤一朗さん(1)

大原ふれあい朝市と通りを隔てた西側は、大きな畑になっている。その畑を耕しているのは、「音吹畑」の高田潤一朗さんだ。畑には、根菜類や、葉野菜、ハーブ類が少しずつ、バランスよく植えられている。背景に比叡山も見えて、撮影にも人気があり、大原のランドマーク的存在になっている。

高田さんの畑はここだけではなく、大原の至るところに畑を持っている。畑の数は、20~30枚あり、総面積にすると15反(約1.5ヘクタール)にも及ぶ。大原の他の農家に比べて広いだけではなく、約100種という多品種を育てているところも特徴だ。朝市のブースにも、いろいろな野菜が並び、ひときわ華やかなようすである。

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高田潤一朗さん。大原ふれあい朝市の前の畑で

高田潤一朗さん。大原ふれあい朝市の前の畑で

高田さんは京都出身。大分県宇佐佐藤農園(現・さとう有機農園)で農業の修行を積んで、大原にきたのは2008年のこと。前編でインタビューした「京都・大原創生の会」宮﨑良三さんたちによる土地改良事業が、終盤に入っていたころだった。宮﨑さんや朝市と出会いがあり、大原で畑をすることに決めたという。妻の深幸さんが大原を気に入ったことも大きかった。ともに京都の大学で歴史を学んでいたが、深幸さんは大学時代に三千院に来たとき、「里と寺院との一体感」に惹かれたそうだ。

———僕の場合はいろいろ運がよくて、若手農家が(すでに移住して)来ていたし、(お客さんである)レストランのひとたちにも最初からわりと受け入れられて、そんなに困らなかったですね。あとは土地も、いい場所を紹介してもらえたりとか。

大原ふれあい朝市を取材した際には、「音吹畑」のブースは、料理人から一般の方まで列が絶えず、6時半頃にはほぼめぼしい野菜はなくなっていた。多品種が並ぶビジュアル的な美しさ、そして何より高田さんの話やすい気さくな人柄があって、よく売れるのだろう。農薬を全く使わない野菜は、スーパーに売っている野菜とは異なり、表情豊かである。

———厳密にいうと「有機JAS」っていう国の資格は取得していないので、おおっぴらに有機野菜とは言えないですけど、有機JASを取得しようと思えば取れる基準にはあって、農薬は全く使ってないです。共同出荷などをしていると、市場に出荷するなら何cmという規格があるんですけど、(僕は)そういうのはどうでもいいと思っていて。かたちなんかも不揃いです。バリバリの生産専業農家さんは、見栄え100%の野菜ができて、初めて “できてる” って言わはる。そういう方々から見ると僕らがつくる野菜は “できてない” ということになる。でも大原には朝市があって、例えばそのひとたち(生産専業農家)から見て70%ぐらいの出来でも「こんなふうになりましたけど美味しいよ」って言ったら食べてくれる、買ってくれるという状況であれば、僕の場合は “できてる” でいいかなと。これ曲がってるけど、あのひとなら食べてくれるやろ、と顔を思い浮かべながら。

「音吹畑」の野菜は「大原ふれあい朝市」、直売所「里の駅 大原」、そして無農薬野菜を取り扱う小さな八百屋のみで販売している。大手の流通システムからは外れた「顔が見える相手」に売るというところに、高田さんは醍醐味を感じている。「大分県で農家を手伝っているときは、できた農作物を運送業者に預けて、エンドユーザーが誰かさっぱりわからんかった」と高田さん。消費者に直接会って、野菜を届けることができるというのは、日本ではまだまだ少数派だ。農家としてのモチベーションも、当然変わってくるようだ。

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山々をのぞむ畑では、黄色と黒の人参で交互の列をつくる。「昔は遊び心のある畝をたくさんつくって、丸にしてみたりとか(笑)」/ 高田さんのつくる野菜は色とりどり。ビジュアル的な美しさも魅力

山々をのぞむ畑では、黄色と黒の人参で交互の列をつくる。「昔は遊び心のある畝をたくさんつくって、丸にしてみたりとか(笑)」/ 高田さんのつくる野菜は色とりどり。ビジュアル的な美しさも魅力