アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#156
2026.05

シネマと本とパンと まちの「あいだ」を潤す

2 カフェ「HAKUSEN」 鳥取県東伯郡湯梨浜町
5)HAKUSENにないものを リブラリエ

HAKUSENには現在、2店舗目の「Librarie by HAKUSEN」(以下、リブラリエ)もある。オープンは2020年。HAKUSENから湖畔沿いに歩小高い丘の頂上で、廃校となった小学校の一室を改装した。HAKUSENよりもポップで、椅子のセレクトなども遊び心があって楽しい囲気だ。リブラリエという名の通り、松江市にある書店「artos Book Store」がセレクトした書籍のコーナー「アルトス分室」も設けられている。

———HAKUSENにスタッフが増えてきて、僕の自由度が下がっていったですよね(笑)。最初の数年は、今日これやろう、あれやろう、みたいな感じでやっていたのに、人が増えるとある程度かたちを決めなきゃいけない。だんだん自分にとって「職場」になっていってたんです。これは、自分の「遊び場」が要るな、と思って。
もうひとつには、お客さんに「ないもの」を求められるようになってきたんです。お昼ご飯食べれないの? と言われることが多くなったり。確かに、それがないと、この小さいまちからお客さんが出ていって(近くの)倉吉とかに行ってしまって、もうこっちには戻ってこない。
ちょっと軽食でも食べられて、このまちに1時間でもいてもらうことができれば、ここの空気を吸ってもらうことができる。通り過ぎてしまう場所じゃないほうがいいと思ったで、HAKUSENではできないことをするお店としてつくったんです。
だからリブラリエには軽食があるし、最初はマシンでエスプレッソを淹れたりしていました。もう丸5年経ちましたね。

今や、小島さんはリブラリエにいることが圧倒的に多い。「(HAKUSENは)スタッフがみんなしっかりしてて、僕のやることがないから」と笑う。遊び場だから、ライブなどのイベントを催したり、毎日家具を入れ替えたり、軽食のメニュー変えるなどして楽しんでいる

———HAKUSENは、お店に入った瞬間にの景色ので、それ以上の説得力はないんですよ。だから、景色を邪魔しないようなお店にするというのが大きいですね。

HAKUSENが湖に包まれ、ゆったり呼吸できる静かな場所であるなら、リブラリエは、店内のインテリアや書籍コーナーなども楽しめる、カジュアルな空間だろうか。
その場所に合った心地よさをつくりだし、訪れる人に差しすこと。小島さんにはぶれがない。

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旧さくら小学校の校舎。丘の上にあるかわいらしい建物だ。リブラリエは1階の木々に囲まれた場所にある。ちなみに3階はミニシアター「ジグシアター」が入っている

「当たり前のことを当たり前にやる」ことを積み重ね、まちの美しい景色を、より引き立たせてくれるカフェ。湖に浮かぶように、あるいは小高い丘から湖を一望するように。そうした在りかたが、そこで開きつづけるという意志が、取材から戻ってきた後もじんわりと効いてくる。
最終回となる次号では、ミニシアター「ジグシアタ−」を取りあげたい。

HAKUSEN https://www.instagram.com/hakusen_matsuzaki/
Librarie by HAKUSEN https://www.instagram.com/librarie_by_hakusen/
汽水空港  https://www.kisuikuko.com/
取材:山本佳奈子(やまもと・かなこ)
ライター・編集者。1983年生まれ、尼崎市出身。アジアを読む文芸誌『オフショア』の編集・発行人。2015年より約5年間那覇市に暮らし、現在は神戸市在住。
写真:成田舞(なりた・まい)
山形県出身、京都市在住。写真家、二児の母。夫と一緒に運営するNeki inc.のフォトグラファーとしても写真を撮りながら、展覧会を行ったりさまざまなプロジェクトに参加している。体の内側に潜在している個人的で密やかなものと、体の外側に表出している事柄との関わりを写真を通して観察し、記録するのが得意。 著書に『ヨウルのラップ』(リトルモア 2011年)
http://www.naritamai.info/
https://www.neki.co.jp/
制作進行:浪花朱音(なにわ・あかね)
1992年鳥取県生まれ。京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。約3年のポーランド滞在を経て、2020年より滋賀在住。著書に『しゃべって、しゃべって、しゃべクラシー! 憲法・選挙・『虎に翼』』(タバブックス)。
特集編集長(構成・文・編集):村松美賀子(むらまつ・みかこ)
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、言葉や本に関するワークショップや展示、イベントなどを行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。滋賀県陶芸の森評議員。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。