(2026.05.05公開)
庭の中にある素敵な石灯籠や景石を見ると、思わず嬉しくなる。これらを選んだ施主や庭師、それを作った石工、そして庭の中でひっそりと佇み続けてきた長い年月に、想いを馳せてしまう。植物が好きで庭園デザインの道に入ったが、いつの間にか、庭に据えられた自然石や石灯籠にも心を奪われるようになった。

筆者が改修を手がけた京都の寺院庭園。江戸時代の灯籠を活かし、景石と飛石を据えて新たな景を創出
なぜ石はこれほど魅力的なのか。それは、長い時間を経てもなお変わらず、その場所に在り続けるからだ。植物はやがて枯れ、姿を消してしまう。「〇〇お手植え」と伝えられていても、実際には植え替えられていることが多く、当時のものが残っていることは少ない。しかし石は、長い年月を経てもほとんど変わることなく、その場に存在し続ける。
平等院鳳凰堂の前に据えられた「平等院灯籠」は、阿弥陀如来像を照らす灯明として、仏前に一基のみ置かれている。この灯籠は、平安時代には金銅製だったとされる。現在の姿は、各部位ごとに制作年代が異なる。基礎は平安時代、笠と竿は鎌倉時代、宝珠と火袋の板石は室町時代のものだ。金銅から石へと変わり、その後も時代ごとに補修されながら受け継がれてきた。基礎の石が平安時代のものということも驚きだが、各時代の石工たちがこれらを補修し、灯籠を守ってきたことが素晴らしい。人々の想いと長い時間の積み重ねに、ロマンを感じずにはいられない。

筆者がニューヨークのグランドセントラル駅のイベントで作庭した日本庭園。ニューヨークでは自然石の入手が難しく、17世紀の石切場に残されていた石を用いて作庭
日本庭園において、石は極めて重要な要素である。自然石を用い、それらを組み、配置することで空間を構成する。そこには庭師の力量と美意識が如実に現れる。石組みに優れた庭は、やはり美しい。例えば、南禅寺塔頭の金地院では、鶴島や亀島の石組(いわぐみ)が豪快でありなが ら、細部はきわめて繊細に構成されている。作庭は大名で、作事奉行も務めた小堀遠州によるもの。しかし彼自身は現地に赴いていない。遠州の意図を汲み取り、現場で石を組んだのは「賢庭 (けんてい)」と呼ばれる庭師である。彼の手によって、金地院の石組は高い完成度を有している。
また、豊臣秀吉が地割(大体のデザイン)を行ったと伝わる醍醐寺三宝院の庭園も、賢庭によるものとされる。大きな石が沢山使われた、絢爛豪華な「桃山様式」の庭園で、賢庭はここでも膨大な数の石を巧みに組み上げ、護岸や滝石組(たきいわぐみ)を美しく仕上げている。賢庭は当時すでに石使いの名手として知られ、その名も後陽成天皇から賜った。それほどまでに、美しい石組の庭園を作れる庭師が重要とされた時代であった。
小泉八雲は、日本庭園と石について次のように述べている。
「日本の庭園の美を理解するには、石の美しさを知る必要がある。石といっても人工的なものではなく、自然の営みによって生まれた石である。石にはそれぞれ個性があり、色調や明暗が異なる。それを感じ取れなければ、日本庭園の真髄には迫れないだろう。」
明治時代にすでに、日本庭園における自然石の美の本質をここまで言い当てている点に、小泉八雲の審美眼の確かさがうかがえる。石の美しさに気付き、「それを感じ取れなければ真髄には迫れない」とまで言い切っている。
私もまた、日本庭園の美は石にこそ宿ると感じている。日本は石に恵まれた国であり、各地には固有の美を備えた石が存在する。京都の鞍馬石や貴船石、真黒石、和歌山・徳島・愛媛で産出される青石、神戸の御影石、鳥取の佐治石など、それぞれの地域の石が庭園の景観美を支えてきた。世界を見渡しても、自然石をこれほどまでに庭園へ取り入れている国は他にないだろう。

古田織部が好んだと伝えられる「織部型灯籠」。茶人であった織部にちなみ、茶人たちに愛され、茶庭に多く用いられる
また、光を灯すための石灯籠には多様な種類があり、意匠に富んでいる点も日本独自の特徴である。灯籠は仏教とともに中国から伝来し、その後、日本において多彩な形式へと発展した。茶庭には、古田織部にちなんだ小ぶりで上品な「織部灯籠」や、茶道具が彫られた「善導寺型灯籠」などが好まれた。また、徳川家への寄進を目的とした「寛永寺型灯籠」や、春日大社に奉納されたことから三笠山や鹿が彫られた「春日灯籠」など、用途や目的、庭の雰囲気に応じた灯籠がデザインされてきた。
先人たちが好んだ意匠を知ることで、その時代の流行や文化的背景を読み取ることができる。どのような石が選ばれ、どのようなデザインが好まれたのかを知ることで、日本人の感性の豊かさが見えてくる。石や灯籠の魅力に気づいたとき、日本庭園の美しさはさらに深く、豊かなものとなる。庭を歩くとき、ふと石に目を向けてみると、これまでとは違った景色が見えてくるだろう。
烏賀陽百合 (うがや・ゆり)
庭園デザイナー、日本庭園本著者。
同志社大学文学部日本文化史卒業。兵庫県立淡路景観園芸学校、園芸本課程卒業。カナダ・ナイアガラ園芸学校で園芸、デザインを3年間勉強。またイギリスの王立キューガーデンでインターンを経験。
ニューヨークのグランドセントラル駅のイベントで日本庭園を作庭。寺社や国内外の個人邸の庭園を手掛ける。庭園に関する講座や講演、ツアーも行う。また日本庭園に関する書籍を10冊出版。
『美しい苔の庭』(エクスナレッジ)
『京都、美しい苔庭さんぽ』(講談社)
『京都の庭とお菓子さんぽ』(エクスナレッジ)など。
Instagram: @yuriugaya


