アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#108
2022.05

道後温泉アートプロジェクト 10年の取り組み

地域×アートの課題と実践を探る1
3)魅力を凝縮した「密」な芸術祭を
道後オンセナート2022

年計画のひとつの山となる道後オンセナート2022は、コンパクトなまちのサイズを生かした歩いて回れる芸術祭として、半径500mの道後温泉地区に約30組のアーティストやクリエイターの作品がぎっしり配置される。まちを舞台にしたこの規模の芸術祭で、すべて徒歩で回れるものは珍しい。松田さんは今回のオンセナートを通して、新しい芸術祭のひとつのかたちを提案したいという。

———中山間地域にアートを点在させて、旅する楽しさも芸術祭に仕組むというやり方は、越後妻有で北川フラムさんが開発した画期的な手法でした。でも日本各地の芸術祭がそのやり方をなぞることで、その魅力も消化されてしまって、はるばる足を運んでいたアートの関心層ほど、もう芸術祭に飽きています。だから道後では、観光のついでにアートに触れてその面白さに気づく、新しい層を開拓したい。これまでの芸術祭が「疎」なら、こちらは「密」。キュレーションも、つながりがすぐに見えてくるような距離感にこだわりました。

観光客がアクセスしやすい主要な観光スポット付近には、大竹伸朗のパブリックアートをはじめ「オンセナートコレクション」と呼ばれる主要作品15点を配置し、その周辺には宝探しのように作品を点在させて、テーマパークのように次々とアートと出会えるようにした。約10ヵ月という長い会期を、蜷川実花の作品が彩る「ハダカヒロバ」ほか、各所で開催されるイベントによってメリハリをつけ、いつ来ても楽しめる芸術祭を目指す。

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オンセナートコレクションの一部。蜷川実花の作品が展示されるのは道後温泉別館 飛鳥乃湯泉 中庭「ハダカヒロバ」 。ここにも碑文が / 保存修理工事中の道後温泉前の振鷺亭(しんろてい)では、松山市在住のアーティスト隅川雄二の「道後温泉五如団子」を展開。道後温泉の歴史絵巻をテーマに制作している。写真は現在工事中で入浴できない本館「神の湯」の浴室をイメージし、再現した「道後温泉 つもりの愉(ゆ)」

さらに今回は、「文学のまち松山」の特色を生かして、言葉も重要な要素として扱う。「マチコトバ」は、道後のまちを1冊の詩集に見立てた言葉の展覧会。道後に句会場をかまえる俳人、夏井いつきをはじめ、ミュージシャンのSUPER BEAVER、クリエイティブステイに参加したクリエーター、地元の方など、多彩な人々が選んだ言葉をまちのあちこちに散りばめて、言葉に導かれて道後の散策を楽しんでもらおうというもの。視覚的インパクトの強いアート作品とは別のやり方で、道後の風景に穏やかに浸透して、言葉の力をじわじわと発揮するだろう。

道後オンセナート2022は「いきるよろこび」をテーマに、2022年4月28日から来年の2月26日までの長期にわたって開催される。温泉を楽しみながら、そこにアートもあるという見せ方は、どれだけ人々に届くのか。これまでの芸術祭とは一線を画したいという思いが、まちのひとや来訪者にどう受け取られるのか楽しみだ。