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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#108
2022.05

道後温泉アートプロジェクト 10年の取り組み

地域×アートの課題と実践を探る1
2)次代を見すえた、ユニークな滞在実験
クリエイティブステイ

2021年度の中心事業「クリエイティブステイ公募プログラム」は、クリエイターが道後温泉地区に約1週間滞在し、道後の文化に触れながら創作や交流活動を行う滞在プログラム。753組の応募者のなかから、落語家、大道芸人、作曲家、美術家、詩人など幅広いジャンルのクリエイター50組が選ばれ、2021年11月から2022年1月にかけて、代わる代わる道後温泉のホテルや旅館に滞在した。
温泉地でのレジデンスというだけでも魅力的だが、特徴的なのがプログラムの「ゆるさ」だ。創作のジャンルは不問。最長1週間をどのように過ごしてもOK、成果を発表する義務もない。道後での新しい出会いや発見を持ち帰って将来の創作に役立ててもらえれば、と、つくる側の自由度が高い。アウトプットの義務から解放されたクリエイターたちは、自身の眼差しの原点に戻り、リラックスしてそれぞれの道後時間を持てたようだ。
このユニークなプログラムの仕掛け人で、「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」の総合プロデュースを務めるのが、スパイラルのシニアプランナー、松田朋春さん。松田さんは2014年の道後オンセナートも手がけており、10年にわたる道後温泉×アートのビフォー&アフターをよく知る人物だ。

松田さんは、現在の道後温泉の様子を見て、2021年は外部とのつながりを広げることに注力した。クリエイティブステイでは、多彩なクリエイターとまちが出会うことから自然に起こる化学反応のようなものを期待したという。

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松田朋春さん。詩人としても活動する

———今の道後のピンチは、目立ったピンチがないことです。コロナの影響を除けば、道後自体のブランディングはうまくいっているように見えます。でも、10年後20年後はどうだろうか。次の世代にもまちを守りつつ、変え続けるパワーがあるか。だから今のうちに外部のいろんな人につながっておくことが必要だと考えました。クリエイティブステイは予想通りうまくいって、出会ったクリエーター同志でコラボレーションが起きたり、地元といっしょにパフォーマンスを創作したりと、さまざまな出来事が化学反応のように起きていました。

オープンカーを借りて道後を拠点に愛媛県内を回った人もいれば、松山市内の建築探訪をした人、ボランティアガイドのおじいさんと毎日歩いた人など、参加者は本当にさまざまなスタイルで道後を満喫していた。滞在後に寄せられた短い感想動画を見ると、多種多様なステイの雰囲気がよく伝わってくる。
こうした多様で自在な滞在スタイルによって、クリエイターが道後温泉発着の新しい旅プランを考えるリサーチャーの役割も果たしていた、と松田さんは評価する。

———道後温泉の客単価をあげるためには、今後1泊2日以上の旅のプランを提案していく必要がある。そのときに、彼らが独自に開発した滞在スタイルはとても参考になります。

反面、道後や松山での関係人口に対する感度はまだ薄いと感じたという。なぜなら普段から人がたくさんやってくるので困っていないから。クリエイティブステイに参加したクリエイターたちが、今後、いつ、どのようなかたちで道後温泉に関わるかは明確に決まっていないが、その「弱目的性」がもたらすオープンエンドな可能性は、コロナ禍の不確実な時代に貴重な示唆を含んでいるように感じた。クリエイティブステイに参加したクリエイターの一部は、2022年の道後オンセナートにも早速参加する。

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詩人カニエ・ナハは娘さんとともにステイ。「句碑、歌碑などをめぐって歩いていると、アンソロジーのように感じた」「いつか石碑になれたらいいな」/ 温泉の本質とアートの関係を考察したキュンチョメ「想像の10倍は良かった」(以上、youtubeチャンネル「クリエイティブステイin道後温泉」より) / 松田さんは、移住でも観光でもなく、訪れた土地とかかわる「関係人口」にも着目。これからの道後温泉にとって大変重要と考え、「関係人口サミットin 道後温泉」を2022年1月10日に開催した