アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#108
2022.05

道後温泉アートプロジェクト 10年の取り組み

地域×アートの課題と実践を探る1
1)まちのシンボル・道後温泉本館を覆う《熱景/NETSU-KEI》

道後温泉のシンボルで、国の重要文化財に指定される道後温泉本館は、現在7年にわたる保存修理工事の真っ只中。スタジオジブリの『千と千尋の神隠し』に登場する油屋のモデルのひとつといわれる特徴的な建築を、建設当時の部材を可能な限り再利用しながら慎重に工事が進行している。
2021年、後期工事の始まりに合わせて、本館を覆う素屋根テント膜全面に大竹伸朗の作品が出現した。南北約34メートル、東西約30メートル、高さ約20メートルにわたる大竹史上最大のパブリックアートだ。商店街がある西側から見上げると、紙をちぎった無数のかたちと色の重なりが立体的に迫ってくる。南側の冠山から見下ろすと、屋根に太陽と月、地球、側面には道後温泉を発見したという伝説の白鷺が。そして東面入口の上には愛媛県の霊峰、石鎚山が描かれて、全面で異なる表情を湛えている。地面から湧き上がる源泉のような熱量に、ただ圧倒される。
道後の風景を一変させた派手なテント膜と、変わらぬ風景を保存するための修理工事。新しさと旧さが拮抗しながらひとつの風景をつくる構図は、道後温泉のアートの特徴でもある。「歴史あるまちなみに現代アートはそぐわないのでは」という意見は、アートを始めた頃から地元にあり、この作品も実際のところ賛否両論だという。古い保守的な土壌でありながら、それでも大竹伸朗を起用した大胆さと、それを(批判的であれ)受け入れるまちの懐の深さに驚嘆する。これが長年アートプロジェクトを続けてきた地域の力なのだろうか。

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保存修理後期工事期間中、アートを軸とした新しい活性化策「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」という3ヵ年計画が推進されている。大竹伸朗の作品もその一環だ。コロナ禍からの社会の本格回復を2022年と想定し、2021年は関係人口を増やす準備年、2022年には道後オンセナートを開催、2023年はインバウンドの復活を見越した国際クラフトフェア(仮称)を開催するというグランドスケジュールを組んでいる。この事業全体をプロデュースするのが、東京のスパイラル / 株式会社ワコールアートセンター。スパイラルは初回の道後オンセナート2014も手がけており、2014年以来、久々に道後でのアートプロデュースに携わる。

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自製の色紙を重ね合わせ、世界各地の紙も用いてつくりあげた。原画を約25倍に拡大しているが、紙のちぎり跡などもよく見え、臨場感と迫力がある。商店街から作品が見えるのも異世界的