アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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2013.03

おもてなしの精神で広がるまち 神山

後編 ビジネスとのつながりの先に見えた、まちの未来
7)神山の基礎体力

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2010年、京都造形芸術大学ASP学科の学生を中心に神山で行われたプロジェクト「カミツレ」。2009年より地域の調査・研究を行い、これまでのレジデンスで制作された作品に着目し、成果として展覧会の企画、出版物の発行等を行った

2010年、京都造形芸術大学ASP学科の学生を中心に神山で行われたプロジェクト「カミツレ」。2009年より地域の調査・研究を行い、これまでのレジデンスで制作された作品に着目し、成果として展覧会の企画、出版物の発行等を行った

寄り合いの会場となる岩村洋品店。毎日のように誰かしらが集まってくる

寄り合いの会場となる岩村洋品店。毎日のように誰かしらが集まってくる

さて、グリーンバレーによるさまざまな活動によって神山への注目度とひとの流れは、この十数年でまたたく間に変化していった。おおまかにおさらいすると、人形の里帰りという先人達の交流を受け継ぐところから国際交流が生まれ、地域としての伝統的な強みであるおもてなしを文化事業、アーティスト・イン・レジデンスとしてさらに発展させた。その後の4年でICT企業という先端産業を誘致するなど、自分たちのまちのことは自分たちで決めるスタンスに変わりはない。

少し客観的な眼をもって見たとき、このまち独特の力はどのようなところにあったのだろう。アートによるまちおこしなどに詳しい、アートジャーナリストで京都造形芸術大学准教授・山下里加に聞いた。

山下は、2007年の取材をきっかけに、大学でのプロジェクトとしての関わりを持ち、公私共々毎年のように神山町を訪れるなど、継続的に見てきている。その上で、「まちのひとたちは、本質的には変わっていないのではないか」という。

———スタッフの忙しさはもちろん変わっていると思いますが、基本的なようすとして、神山町内部のひと、外部のひと、外国のひとや若者、お年寄りなどがごちゃまぜになっている状況は、いまも変わらない特徴であり、魅力のひとつだと思います。寄り合いのようなおもてなしパーティーが象徴的です。

山下の言うパーティーとは、第一回目で出た大南さんたちがアメリカで体験してきたという“パーティー”のスタイルが神山町で定着し、来客があった時などさまざまな機会に自然発生的に催される、寄り合いのような、集い場のようなおもてなしパーティーのこと。

おもてなしパーティーは主にグリーンバレーの理事でもある岩丸潔さんの岩丸洋品店の店舗かご自宅で行われることが多い。商品をすべて片付けて、売り場を会場に行われる。持ち込みの料理や飲み物が大半で、時間を気にすることなく1人、2人と集まってくるパーティー。まちへのゲストは常にここで歓迎される。決して特殊なものではなく、肩肘張らず、だれでも迎え入れてくれる、他者に対して開かれていっているようなおもてなしの精神。これこそが、神山の強み、良いものの感覚を共感できていて、その輪を広げていく流れになっている。

「まずICT企業やエコロジーといったような時代のニーズをつかむのではなく、最初にアートという、決してわかりやすいものではないものを受け入れる感覚、アーティストの希望に応えていく態勢がまちにできたことが大きい。神山のおもてなしの精神はアーティスト・イン・レジデンスによって、基礎体力付けがなされたのではないでしょうか」。山下はアートという「わからないもの」との対話を続けてきたことも、神山発展の重要なポイントだったのではないかと話す。それが神山町の原点であり、今をつくる基礎となっている部分であり、いつでも立ち返られる初心でもある。