2)唯一無二の環境 「師匠」との出会い
ダグラス・ディアス2
これまでいろいろな国に住んだダグラスさんにとって、東吉野村は「本当にすばらしい環境」だと話す。
ダグラス:ある日、朝食を終えて、和之さんたちと一緒に家の外に座っていたときのことです。風が吹いて、木々が揺れ、雲も同じようなリズムで流れていました。鳥が飛び、川が流れているのも見えました。そのとき、ふと気づいたんです。すべてのものには、普段は見えないエネルギーがあるんだ、と。
都市にも強いエネルギーがありますけど、ここではもっと自然に、穏やかに流れているんです。「自分の人生も、こういう流れにのるようにしたい」と思いました。まるで、より美しいダンスを踊るような感覚です。とても美しくて、リズムがあって、感動します。
ダグラスさんは、都市だとその中にいるのに全体を意識することはあまりない一方で、東吉野村では、「木や岩や川、すべてが同じスケールの中でつながっていて、自分が『ここにいる』という感覚がはっきりとある」と話す。

ダグラス:東吉野村の人口は少しずつ減っていますが、そのぶん自然の豊かさはいっそう際立ち、木々がますます増えていくように感じるのです。このバランスが、今の私にはとても心地いいんです。
私は日本語が話せないので、体感としてはさらに人が少ない。年配の方々と「こんにちは」と挨拶はするけれど、それ以上の会話はほとんどありません。でもそれが、むしろちょうどいいんです。
私にとって重要なのは、自然との関係です。私の作品では、根本的で、誰にとっても共通するものを探りたいと思っています。興味があるのは、自然のあり方や美しさの捉え方、そして私たちが感じる感覚です。東吉野だからこそ、それが自然に立ち現れてくるんです。
そうした環境で、ダグラスさんは和之さんの生き方や創作に触れていく。思考するのではなく、静かに感じ、自分自身を見つめ、自分なりの表現を探っていった。
ダグラス:東吉野村では、都会のような逃げ場がないぶん、自分自身と向き合うことになります。和之さんは「自分自身を描け。他人を真似するな」と言ったのです。
呼吸すること、目を閉じること、歩くことって、考えてやっているわけではないですよね。ただ自然に起こっている。絵を描くことも、本当はそれと同じなんです。
自然の中に座って、ただ待つんです。探しに行くのではなく、観る。自分の内側で起きているものを、そのまま外に持ってくる。内側にあるものと戦う必要なんてないんです。
こうして和之さんは、ダグラスさんにとって、進むべき道を示してくれる「師匠」となっていったのだ。その後、「ここだけに留まらず、世界を見に行ったほうがいい」という和之さんのすすめで、ダグラスさんはヨーロッパやアジアの各国を行き来しながら、日本にも展示のために来るようになった。
その一つが、2015年から2019年まで、和之さんがプロデューサーとなって奈良県内で毎年開催された芸術祭「WSMA(ワズマ)」だ。これにダグラスさんは毎年参加した。

スウェーデンに住み、ハワイに家を持っていた。また、バンコクにスタジオを持ち、バリに滞在し、カナダやヨーロッパを行き来するなど、世界のさまざまな場所を訪れてきた。禅にも深い関心を抱いている


