1)アメリカから 東吉野村でアーティストになる
ダグラス・ディアス1
東吉野村役場から車で数分のところに、ダグラス・ディアスさんのアトリエ兼ギャラリーがある。茶工場だった建物を改修したところで、中に入ると、開放的な広さや高さが心地よい。彼はここで作品づくりや個展などを行っている。
1972年、ニュヨークに生まれたダグラスさんは、コロンビア大学院建築学科で修士課程を修了し、同大学で7年間教鞭をとった後、デザイナー向けのコンサルタントやクリエイティブディレクターとして活躍していた。東京に拠点のある「Rhizomatiks(ライゾマティックス)」に在籍した時期もあり、世界各国でテレビ、ウェブ、デジタルメディアという表現領域を越える革新的な活動をしていたのだ。
クリエイティブな仕事ではあるものの、基本はクライアントワーク。それが一転して、今ダグラスさんは東吉野村でアーティストをしている。
転機は2014年。なんと「間違って東吉野村を訪れ、初めて絵を描いた」ことだった。


ダグラス・ディアスさん
ダグラス:本当は奈良市に滞在したかったんですが、Airbnbの検索の仕方を間違えてしまって、気づいたらこの村に来ていたんです(笑)。間違ってAirbnbで予約したのが、坂本和之さんのアトリエでした。でもそれが、私にとって強烈な体験になりました。
坂本和之さんとは、2017年の特集で紹介した村を代表するアーティストだ。和之さんは北米やパリで暮らした後、大阪に住んでいたが、2003年に東吉野村へ移住した。この村の移住第一世代でもある。豊富な海外経験、あたたかく正直な人柄、器の大きさなどから、彼を慕う外国人も多い。ちなみに、2026年9月号で取り上げるデザイナー・坂本大祐さんの父でもあって、日本人クリエイターにも広く慕われている。
ダグラス:和之さんが私に紙と鉛筆を渡して「描いてごらん」と言ったんです。正直に言うと、何を描けばいいのか全然わからなくて怖かったです。何枚か描いたんですが、ひどい出来でした。
でも、彼はとても優しかった。朝ごはんを食べて、昼寝をして、また少し描いて、散歩に出て……という生活を繰り返し、5日間過ごしました。そして私が帰るとき、彼は箱をくれたんです。その中には、紙と鉛筆が入っていました。
そのあと私は1ヶ月、日本の各地を旅して、毎朝5時半に起きて絵を描くようになったんです。旅が終わる頃、「もうこれだけをやっていたい」と思うようになっていました。
紙と鉛筆を手に、アーティストの道を歩み出したダグラスさん。その後も東吉野村を訪れ、「東吉野村の滞在が長くなるほど、離れたくなくなっていった」と話す。2015年から2017年まで東吉野村に住み、毎日のように和之さんのスタジオで並んで絵を描いた。




