5)日本語とスペイン語で発信する
アンドレス・カマチョ2
アンドレスさんは、地域おこし協力隊の活動の一つとして、ルーラルマガジン『ときどき百姓』を2023年2月に創刊した。その名は、歴史学者・網野善彦の代表作『日本の歴史をよみなおす』での「百姓は、農民だけではなく商業や手工業など、多様な生業の従事者であった」という主張にインスパイアされたことに由来し、「百の生き方」「百の可能性」という意味で使用している。日本語とスペイン語のバイリンガルマガジンだ。
アンドレス:日本の歴史を見直す話や場所が好きなんです。『ときどき百姓』では、僕自身が魅了された日本のリアルな農村の暮らし、歴史、精神性を伝えています。教科書や書籍などにはあまり出てこないような歴史をシェアしたいし、リサーチして自分なりに解釈したことを発信したいと思い、メキシコと日本の各地に住む、現代の生き方を考えたい人たちに向けて届けています。
あるときテレビの取材を受け、アンドレスさんが百姓の話を紹介すると、制作側から「すみません。『百姓』という言葉は使えないんです」と言われたという。歴史的な身分制度や蔑視的なニュアンスを含む場合があるため、現代のメディアでは不適切な表現として扱われることが多い。「そう言われたら、『百姓』って呼ぶのは逆に正解やなと思って(笑)。メインメディアでは発信されない話を発信したいから。『百姓』という言葉がより気に入りました」と笑顔で話す。


写真と文章のルーラルマガジン。現代の日本の村の暮らしと、メキシコの村の歴史をドキュメントする。それぞれの村に暮らす人たちが小説やエッセイ、写真などを寄せている
この雑誌は、多くの人に支えられて制作している。コンテンツとしては、「百姓がいるところには」「卑弥呼」といったアンドレスさんの記事や小説をはじめ、村内のクリエイター、メキシコ在住の友人など、さまざまな人の寄稿や写真がある。
東吉野村の人文系私設図書館「ルチャ・リブロ」を営む青木真兵さん、海青子(みあこ)さん夫妻も常連メンバーだ。アンドレスさんは彼らと「百姓って何?」「キャピタリズム(資本主義)って何だろう」といった話をよくしている。
『ときどき百姓』がバイリンガルマガジンである理由は、二つあるという。
アンドレス:一つは、僕はスペイン語でずっと育って、考えや感情を生み出すのは全部スペイン語を使うからです。もう一つは、スペイン語を母語とする人の数は世界2位で、約5億人いるから。1位は中国語です。実は、スペイン語を母語とする人は英語より多いんですよ。だから日本語を、英訳を介してスペイン語にするのではなく、ダイレクトにコミュニケーションをとったらいいんじゃないかと思って。人は、人とコミュニケーションとることが大事だと思うんです。
そう考えるアンドレスさんは、紙媒体のほか、Podcast番組『JAPON ES CHIDO(ジャポネシード)』やSNSなど、さまざまなメディア、ツールで発信している。「JAPON ES CHIDO」とはスペイン語で「日本は最高」という意味だ。


人文系私設図書館「ルチャ・リブロ」。「天誅組終焉の地」という石碑の近くで、青木真兵さんと海青子さんが運営する。館の名称は真兵さんの好きなメキシコのプロレス「ルチャリブレ」とスペイン語で本を意味する「リブロ」をあわせたもの。二人は『ときどき百姓』にもよく寄稿している



