3)自分自身になるために / 「4日間」のすすめ
ダグラス・ディアス3
コロナ禍を経て、2023年にようやく日本に入国できたダグラスさん。和之さんが80歳になるため、会いに来たのだ。ダグラスさんの生き方や創作を見守り続けた和之さんは、このとき何かを感じたのだろうか。夕食の席で和之さんに「日本に住んだらどうか」とすすめられたダグラスさんは、再び東吉野村に住むことを決断した。
そのとき出会ったのが、アトリエになった建物だ。中を見た瞬間「ここは最高のスタジオになる」と気に入り、所有者から購入。その年の夏にスウェーデン・ストックホルムから移住し、10月から地域おこし協力隊員になってスタジオの改修や作品づくりを始めた。

あるとき、ダグラスさんは真剣に自分に問いかけた。「自分は何者なのか」「本当に好きなものは何か」、そして「何をしたいのか」と。
ダグラス:それはとても難しい問いでした。私たちは子どもの頃から、親や学校、社会、仕事など——
常に誰かから「こうあるべきだ」と教えられています。自分が何者かを“外側から定義され続けている”んです。
私は自分にこうも問いかけてみました。「もし明日、世界に誰もいなかったら、何をする?」と。誰にも見られず、誰にも評価されず、誰にも期待されず、誰にも必要とされない。ただ自分一人だけだったら、何をするか。
私の答えは「絵を描くこと」でした。誰のためでもなく、自分自身のためにやること。自分を知り、自分になるための行為です。
私はアートを、「世界に対して自分が何を伝えたいか」だと考えています。本当に大事なのは、「どう伝えるか」なんです。




(上から)高見川で蛍の飛び交う景色を描いた作品「149」/「Flowers」は、2000点に達するまで、毎日40点描くシリーズ。誰でも気軽に買えるよう、1点20ドルで販売している / 楮のパルプ(液体状の繊維の塊)を直接手で扱い、物質性をコントロールせずにかたちづくる/右は楮和紙に黒鉛で描いた作品
近年の彼は、2023年から始まった「はじまりの東吉野 オープンアトリエ」に毎年参加したり、2025年には奈良市の国登録有形文化財「藤間家住宅」で個展を開催したりと、積極的に活動している。
ダグラスさんにとって、生きることとアートは結びついている。それも、東吉野村という環境があって成り立つのだろう。ダグラスさんに東吉野村のクリエイターについてたずねると「多くのクリエイターがいて、とてもおもしろい場所」と語った。
ダグラス:日本の伝統的な徒弟制度では、まず師匠から学び、長い時間をかけて模倣し、ようやく自分のスタイルを持ちますよね。
でもこの村では、少し違います。木工職人もデザイナーも陶芸家も、最初から自分のやり方を模索しているんです。陶芸や木工など、日本の伝統的な技術を使う人もいますが、ただ歴史をなぞるのではなく、むしろ少し反骨的で、自分の表現を見つけようとしている。それが、東吉野村のおもしろさの一つです。
私もいろいろなクリエイターと作品を見せ合い、話をしています。おもしろい関係ができていますし、もっと広がる余地もあります。
今後はアーティスト・イン・レジデンスとしても利用できるよう、ダグラスさんはアトリエを改修している最中だ。彼は、日常を忙しなく過ごし、旅ですらも急ぎがちな現代人に対してこう語りかける。
ダグラス:東吉野村に来てほしいのは、自然との関係について独自の視点を持っている人と、自身で何かを学びたいと思える人です。ここに4日間以上滞在したら、何か新しい答えが見つかるかもしれません。2日間でも3日間でもなく、おすすめは4日間です。体のリズムが変わる時間でもあるんです。4日経ってようやく見えるように、聴こえるようになります。
大切なのは、明日のことを考えるのをやめること。「次に何をしなければならないか」を手放したときに、見えてくるものがありますよ。

手前にある作品は、人が座ることで均衡が生まれる。人と人、身体と空間など、さまざまな関係性を想像させる


