アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#157
2026.06

シネマと本とパンと まちの「あいだ」を潤す

3 映画館「ジグシアター」 鳥取県東伯郡湯梨浜町
7)個人店の映画館 観客とともに変化する

ジグシアターに行けば、かならず柴田さんや三宅さんがいる。ふたりと上映作品の話をすることもできるし、パンフレットはもちろん、関連する書籍や資料なども豊富に用意されていて、自由に閲覧できる。よく来てくれる人が長話をしていくことも、しばしばだ。
コミュニティスペースのようなありかたを、柴田さんは「個人店」だという。

柴田 あんまりないかもしれないけど、個人店の映画館なんです。個人店のカフェがあるように、個人店の映画館。少し前に独立系書店という言葉がありましたが、独立系映画館なのかもしれません。

それを聞いて、なるほどと思った。ジグシアターのセレクトに惹かれて、やってくるお客がいる。店主ふたりに会うことを楽しみにしている人たちもいるだろう。映画を観にくるだけでなく、上映前後も、自由に時間を過ごしていい。店主の顔のみえる映画館なのだ。柴田さんはそれを、ギャラリーにもなぞらえる。

柴田 ギャラリーの人は、作品を選んで責任を持って示して、その作家について一番詳しい人でもある。質問があったら聞くこともできて、その作品との橋渡しをしてくれる。もちろん、必ずしも話さなくてもいい。ファインアートに限らず、鳥取で作家のものを売っている店がまわりに多いこともあって、たまたま自分たちはジャンルとして映画だ、という感覚です。

当たりまえだが、店はお客があって成り立ち、お客とともに変わっていく。そうしたかかわりのなかで、柴田さんと三宅さんにも変化が生まれている。

三宅 ジグシアターで上映することで、ひとつの作品の面白さをじっくりと味わえるようになった気がします。上映のためにする準備もそうですし、お客さんとの会話から、自分では思いつきもしなかった見方に気づかされることもたくさんあります。

柴田 昨日来たお客さんの感想を、今日のお客さんに伝えたりして、そんなふうにも考えられる、というのを混ぜ合いながらやっていくのがすごく面白くて。

三宅 お客さんたちはきっと戸惑うこともあると思うんですが、それぞれ自由に一つひとつの作品を心から楽しんで味わってくれていて、本当に素敵な観客のみなさんに恵まれているなと感じています。

ここでは、映画を観ることは会話のようでもある。誰かの言葉が混ざり合っていくことで、映画が少し違ってみえてくる。かつて、三宅さんが柴田さんのガイドで、映画を観る楽しさを知ったように、今は映画館という場で、お客も交えて、楽しさがより広がっている感覚だろうか。

_37A9860