4)プレイベント『ハッピーアワー』
話は戻るが、映画館をやったらと柴田さんに提案したとき、三宅さんにはもうひとつ、思うことがあった。
三宅 出会う前からもともと、柴田は本当に映画が好きで。一緒に映画を観るようになって、映画の海のなかで、どの時代にどういう映画があって、どんな監督がいて、どんなふうに映画をつくってきたか、というようなことが柴田は頭に入っていて、私はその地図を頼りにいろんな港に行くような感じがありました。道しるべというか、灯台のあかりのように行く道を知らせてくれる存在がいると、好き嫌いとか、面白い面白くない以上に映画をしっかり観て向き合うことができる。映画を観るのがそれまでよりも楽しくなりました。
それはもしかしたら、他の人にもけっこう必要とされているのでは、面白いと思ってくれる人がいるのではないかと思って、映画館をやってみたらいいんじゃない、と言ったことを思い出しました。
来る人が映画を楽しめて、映画を観る体験を深められる案内役として。
プレイベントでは、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』を上映した。柴田さんはこの作品に出演している。神戸のKIITOで開かれた濱口監督の長期的なワークショップに参加して、鵜飼景という役を演じたのだ。自分たちの紹介もかねて、深くたずさわった映画をかけることに、ふたりとも迷いはなかった。
イベントは2日間。5時間17分ある作品を1日かけて上映し(3部に分かれている)、翌日は濱口監督と柴田さんのトークイベントをオンラインで行った。
そもそも、映画を上映している人が、その作品に出演しているというのも滅多にあることではない。ジグシアターの始まりは、そんな構造でもあった。
柴田さんは、ジグシアターを始めるにあたって、『映画館と観客の文化史』を読んだという。この本には、初期の映画館は観客が合唱したり話をする賑やかな場であったことをはじめ、時代や場所の変化とともに、映画を上映するかたちも、観られ方もさまざまに移り変わってきたことが書かれている。ジグシアターのありかたもまた、そのひとつなのだ。
多くの人に助けられてつくった場所が、観客で埋まっていて、「この映画を観てほしい」という映画をかけている。観る側にすれば、これまで観る機会がなかったような映画を、新しい感覚の映画館で観ている。
映画館という空間で、誰かと同じ映画を観るという体験。5時間17分はとても長いように思えるが、ただ長いだけではなかったはずだ。
プレイベントでは共用会議室を一時的に使用したが、終了してほどなく、隣の図工室(及び準備室)を長期的に借りられることになって、ジグシアターは7月、正式にオープンする。仮の感覚は続いたまま、とりあえず「月1企画」で始めてみたら、「仮がベストアンサーだった」(三宅さん)と思うまでに、そう時間はかからなかった。


2023年には「濱口竜介傑作選vol.1」と題した上映会も行った。その際にもトークイベントを開催した


