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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#90
2020.11

コロナ禍の変化と取り組み

1 書店という空間 宮城・仙台、青森・八戸
4)非常事態下の公営書店

そこで思い浮かぶのが一昨年、68号(2019年1月)で取り上げたこれからの図書空間」で訪れた八戸ブックセンターだ。同館は、市長が掲げた「本のまち」構想によって設立された、八戸市が運営する公営の書店。しかしながら公共図書館のようなインデックス型の商品構成ではなく、テーマごとに選ばれた人文書や小説が95坪ほどの館内にずらりと並ぶ、いまどきのセレクト書店のような趣だ。ドリンクの提供やギャラリーも併設するなど、八戸の文化を牽引すべくオープンした実験的な場でもある。市営の新刊書店という特殊な立ち位置のお店は、コロナ禍においてどのように機能していたのだろう。

2018年7月、同センターオープンに合わせて東京から移住し、八戸の住人として運営に携わってきた森夫妻にふたたび話を伺ってみた。

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森佳正さん、花子さん(撮影:山本貴士)

———2月27日に東京の「本屋B&B」さんで開催されたイベントに出演する予定があったんですが、その日がちょうどイベントを配信に切り替えるタイミングだったんです。「移住して、本の仕事をする 八戸ブックセンターとバリューブックス」というタイトルで、当初はお客さんを入れて開催予定が直前になってお店はクローズして収録オンリーというかたちになりまして。それが最初のコロナ体験だったのかもしれません。
それから青森に戻ってしばらくは感染者が出ていなかったんです。出た際も数人程度でした。だから3月後半まではぎりぎり県外の方をお招きしたイベントを開催できていた。でもその後の営業に関することは、やっぱり市営の施設なので、僕らだけでは判断出来ない部分がありました。(佳正さん)

———働いているわたしたちのなかでも「ちょっと休んだほうがいいんじゃないか」っていうひともいたし、いろいろあったけれど、所長が独断で決められるわけでもない。近隣の公共施設とかとも同じように足並みを揃えないといけないっていうのもあって、すごくやきもきしました。結果、県知事からの要請に基づいてゴールデンウィークになるというときにようやく休業すると。それからわたしたちは、今まで経験したことのない連休に入りました。(花子さん)

八戸ブックセンターは新刊書店でありながら、ある種の嗜好性を提供する場所でもある。市長の政策公約として実現したこの施設は、かつて八戸にあった街の書店の二階、人文書や文芸書など、実用とはかけ離れた知的空間に育てられた市長の原体験から、営利を追求すれば最初に排除されていく人文知を守るために、市の予算で運営されるという異例の取り組みだった。
だからこそ、「必需品」を扱う要請外の新刊書店とは立ち位置が少し異なるのだ。

———八戸市内の他の新刊書店さんがどうなっていたかというと、東北支店の取次さんからの情報によると前年比上がっていました。大手書店など、一部では売上が上がったいたそうです。中でも、学校が休みなので、ドリルや子ども向けの本などが売れていたと聞きました。(佳正さん)
———営業は継続されていて、お客さんがいらしていても、受けいれることに対しては、さまざまな思いもあったかと思います。(花子さん)

個人の生活に直結するお店と公的な空間では、非常時下のふるまいも異なる。経営面、安全面とベクトルは相反するようだが、いずれも市民の利益のためという判断には違いない。さまざまな意見を持つ「みんなのもの」だからこそ休業すべき場合もあるのだ。

本を書きたいひともバックアップ。地元出身の作家の書斎を再現したり、執筆のための小部屋「カンヅメブース」なども。「読まれ方」もよく考えられていて、店内の至るところに椅子があり、ハンモックに揺られながら読書もできる

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八戸は人口23万人の中都市。「八戸ブックセンター」は公営書店として、市民に足を運んでもらえるよう、さまざまな工夫を重ねてきた。市内の高校の図書部員が活用法を考え、プレゼンするなども。また、店内で自由に本を読んでもらえるよう、椅子やハンモックなどを設置する一方で、書きたい人用の「カンヅメブース」も設置(*現在は使用中止? など、変化があればお知らせください)写真:高橋宗正

八戸は人口23万人の中都市。「八戸ブックセンター」は公営書店として、市民に足を運んでもらえるよう、さまざまな工夫を重ねてきた。市内の高校の図書部員が活用法を考え、プレゼンするのもそのひとつ。また、店内で自由に本を読んでもらえるよう、椅子などを各所に設置する一方で、書きたいひと用の「カンヅメブース」もつくった(撮影:高橋宗正)