アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#90
2020.11

コロナ禍の変化と取り組み

1 書店という空間 仙台、八戸
5)書店空間が公共にもたらす影響力と可能性

その空白期間が八戸ブックセンターの存在意義を考え直すきっかけにもなったという。

———わたしたちは本の販売だけでなく、イベントにもかなり力を入れている施設なので、それがなくなるとこの施設の価値は何なんだろう、という。読書体験や本の出会いをつくることのひとつとしてイベントもやってきているので、なくなることには不安がありました。
少しずつイベントを再開し始めているんですが、これまでは外からのひとが来てくれるように考えていたんですけど、コロナ以降は近いひと、八戸近隣地域の方々に改めてアピールすることを考え始めています。
9月の4連休に開催したのが「本で旅する」っていう非常にシンプルな企画で。八戸の飲食店の店主さん始め、市内の図書館に勤めているひととか、主に市内で活動しているひとなどに「本で旅する」をキーワードに選書してもらったんです。1人1冊選んでもらって、実際始めてみてわかったんですけど、人と人とのつながりが割と明確にわかるようになったっていうか、「このひとが紹介してるから見に来た」とかっていうのがわかる。あとは、わかりやすいっていうのはすごく大事だなってあらためて思った。意図的ではあるけれど、今まで結構攻めた展示が多かったと思います。(花子さん)

立ち上げ時の総合ディレクションはブックコーディネイターの内沼晋太郎。店舗グラフィックはグルーヴィジョンズと、同センターにはこれまで全国的に知名度の高いクリエイターたちが関わってきた。過去のイベント登壇者も、アーティストから作家、ミュージシャンまで、ブックセンターができるまで、八戸に迎え入れられる機会の少なかったような面々も少なくない。
前回の取材で訪れた際に開催されていた展示は地元の詩人、村次郎の選詩集の制作過程を展示形式で見せるというものだった。確かにテーマは八戸とリンクはしているが、洗練された展示スタイルなどは、市民に広く興味を持ってもらえるとは限らないものだったかもしれない。

———今までだとチラシをつくるのも、それこそ東京のデザイナーさんにお願いしたりすることが多かったんですけど、今回は全部市内のひとにお願いしました。会場用の什器もご近所のブック・バー「AND BOOKS」の店長さんにつくってもらったりとか。地元のひとたちとつながりを持つことによって、そのひとたちを知っている地元のひとが来てくださる、ということがわかりました。(花子さん)

地元にないハイブロウなものを紹介して、ある種の啓蒙をするような展示を行いつつ、地元にあるものを周辺と協働しながら、地元や他所から来る人々に紹介する展示にもチャレンジするということは「公」の認識の変化でもある。森夫妻が八戸に移住し、過ごした年間で培ったコミュニティと、空白期間がもたらした制限がブックセンターとまちとの関わりを少しずつ変えつつある。

———「公共ってことばが二言目にはつくので、予算のとり方も議会を通すようななかで働きながら、市民というものが22万人に限定されるものなのか、圏域も含めたものなのか、どういうコンテンツを必要とされているのか、どういうひとを呼べば喜んでもらえるのか、みたいことを考えながらやってきたところがありました。でもコロナを経過した今、地域の方と何ができるのか、どうしたら交流が深まるのかっていう感じになっているのかな。(佳正さん)

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会期は2021年1月11日まで継続中。展示空間やグラフィックなどもスタッフで手がけ、フライヤーのイラストや本の選者の似顔絵は花子さんが描いた。空間のつくりかたはシンプルで、親しみやすく入りやすそう。会場には選者が勤める店のショップカードなども設置することで、より身近に感じてもらえるようにした(撮影:髙坂真(八戸ノ本室、提供:八戸ブックセンター)

コロナ禍において、個人的な違和感をきっかけに公的活動をスタートした「火星の庭」の前野さん。公的施設としてスタートしながら、個人的な交流の積み重ねから、その公共性を再定義しつつある「八戸ブックセンター」の森夫妻。書店における公と私の線引きはそう簡単にできるものではない。

あえていうならば、コロナ禍において浮かび上がったのは、必需品か趣味のものかという書物の線引きではなく、誰にでも立ち寄ることが出来る書店という空間が公共にもたらす影響力と可能性だ。

飲食店ほど万人向けではないが、出入りの敷居は低く、商品構成によってある程度お客さんを選別することができる書店は、特定のコミュニティを醸成しやすい空間でもある。行政の線引きでは分断されてしまう、立場も成り立ちもちがうつの書店が、奇しくも非常事態においてそれぞれの公的役割を担うさまがそれを証明しているかのようだ。
書店という空間の持つ、消費機能からはみ出す価値をあらためて認識、評価し、それらをどう成り立たせていくのか、どのように支えていくのかがアフターコロナのひとつの課題となるだろう。

堀部篤史さん。現在、誠光社ではソーシャルディスタンスを配慮しつつ、展示やイベントを行っている(写真提供:誠光社)

堀部篤史さん。現在、誠光社ではソーシャルディスタンスを配慮しつつ、展示やイベントを行っている(写真提供:誠光社)

book cafe 火星の庭
http://www.kaseinoniwa.com/
八戸ブックセンター
https://8book.jp/
誠光社
https://www.seikosha-books.com/
取材・文:堀部篤史(ほりべ・あつし)
1977年、京都市出身。河原町丸太町路地裏の書店「誠光社」店主。経営の傍ら、執筆、編集、小規模出版やイベント企画等を手がける。著書に90年代のこと、僕の修業時代』、街を変える小さな店』(京阪神エルマガジン社)ほか。
http://www.seikosha-books.com

写真(1、2章):大森克己(おおもり・かつみ)
1963年、兵庫県神戸市生まれ。1994年『GOOD TRIPS,BAD TRIPS』で第3回写真新世紀優秀賞を受賞。近年は個展「sounds and things」(MEM/2014)、「when the memory leaves you」(MEM/2015)。「山の音」(テラススクエア/2018)を開催。東京都写真美術館「路上から世界を変えていく」(2013)、チューリッヒのMuseum Rietberg『GARDENS OF THE WORLD 』(2016)などのグループ展に参加。主な作品集に『サルサ・ガムテープ』(リトルモア)、『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)、『心眼 柳家権太楼』(平凡社)など。YUKI『まばたき』、サニーデイ・サービス『the CITY』などのジャケット写真や『BRUTUS』『花椿』などのエディトリアルでも多くの撮影を行っている。

写真(1、4章):高橋 宗正(たかはし・むねまさ)
1980年生まれ。写真家。『スカイフィッシュ』(2010)、『津波、写真、それから』(2014)、『石をつむ』(2015)、『Birds on the Heads / Bodies in the Dark』(2016)。2010年、AKAAKAにて個展「スカイフィッシュ」を開催。2002年、「キヤノン写真新世紀」優秀賞を写真ユニットSABAにて受賞。2008年、「littlemoreBCCKS第1回写真集公募展」リトルモア賞受賞
編集:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集と執筆。出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。2012年4月から2020年3月まで京都造形芸術大学専任教員。書籍や雑誌の編集・執筆を中心に、それらに関連した展示やイベント、文章表現や編集のワークショップ主宰など。著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、編著に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。