アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#90
2020.11

コロナ禍の変化と取り組み

1 書店という空間 仙台、八戸
3)「休まれると困るんだよ!」という街の声

———当店はあんまりインターネットでは販売していないんですけど、古本屋ではもう店で売るよりも、根気よく安く仕入れてネットで売るっていうのがあり方として多数派になってきて、今や店舗をやってるほうが地方だと変わり者なんです。仙台だと市街地で古本屋をやっているのは4軒ぐらいしかないですからね。そのなかの1軒は大学の古本屋で店主は80代、跡継ぎもいないようだし、残り3軒は当店のようにカフェがあったり、出版社がやっていたりっていうイレギュラーなお店なので、風前の灯という感じです。仙台くらいの規模の街でこれですからビジネスモデルとしてあり得ないんだろうなって

それでも火星の庭が店舗を持ち、営業を続けるのはビジネスとは別の文脈で街に必要とさているからではないか。筆者の経営する誠光社では、緊急非常事態宣言下の4月〜5月はほぼ開店休業状態ながら、通信販売でなんとか苦境を切り抜けた。この状態が続くようであれば、営業時間の短縮や定休日を設けるなど、営業形態の変更も考えたが、それでもこれまでの営業スタイルを変えずに続けているのは、やはりいつでも足を運べることの気軽さや安心感が書店には求められているからだ。

———波があるんですけど、コロナ前に比べて売り上げが半分減、7割減っていう日もあれば、本当によく売れたりする日もあって、コロナ以降自分のお店に何が起きているのか正直わからないんです。アップダウンが激しいのは、それだけひとの心も揺れているんじゃないかなって思います。
実感としては、いらっしゃるお客さんが優しくなった気がしますね。どうしてだろう。コロナ前まではみんな忙しそうで本棚を眺めていく時間がどんどん短くなっていく感じだったんだけど、コロナになってまたじっくり本棚に向き合う方が増えたし、まとめて本を買ってくださる方が増えました。

この変化が何を意味するのかはまだわからない。しかし、嗜好性の高い趣味の店と判断され、非常時には営業を規制される古書店でも、日常的に足を運ぶ場として切実に必要としているひとたちは少なからずいるのだ。

———休業期間に入る直前のことなんですが、常連のおじさん、いつもは淡々と本を買ってくださる話したこともない方だったんですけど、店を去り際に入り口の前で突然困るんだよ。休まれると困るんだよ!って

新刊、古書、扱う種類を問わず、本屋という場は物品を消費するためだけに存在するのではない。ときにコミュニティを醸成する産湯として機能し、情報が行き交うメディアとしても必要とされ、何よりサードプレイスとして人々の生活を豊かにする役割がある。こういった場を守るためには、個人の美意識や情熱だけでなく、公的な支援が必要とされる時代が訪れつつあるのかもしれない。

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その他の前野さんのコロナ禍の活動を2つ紹介したい。1)展覧会での選書。仙台在住のアーティスト、瀬尾夏美、小森はるかが参加した「ことばのいばしょ」展(2020年8月22日〜9月22日、札幌市民交流プラザ1-2F)において、瀬尾さんの依頼で選書した。「本を読むってどういうことか考えるきっかけになりました」(写真提供:瀬尾夏美)

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2)仙台在住の写真家・志賀理江子と、仙台の本屋との共同企画「Independent Bookstore Print Editions」(IBPE)。志賀さんが市内のインディペンデント書店3店(「火星の庭」「書本&cafe magellan」「曲線」)で、各々とともに選んだ作品をユニークピースとして制作、店内で展示販売するという試み。作品だけでなく、志賀さんが制作したトートバッグやエプロンなども販売している(写真提供:book cafe 火星の庭)