アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#161
2026.10

シネマと本とパンと2 まちの「あいだ」を潤す 
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1 家具をつくる、風景をつくる  山口県萩市
5)パンクな精神で まちの風景もつくる

現在の中原木材の「仕事」としては、もちろん、椅子や机などのオリジナル家具がある。その一方で、店や施設から依頼を受けて、その場所のためにつくるサインやオブジェ、什器なども手がけている。中原木材のアトリエを知り、忠弦さんの人となりを知る人たちからの依頼がほとんどだ。

依頼した人の話を聞き、その土地や場所の背景を知り、そこで生じた廃材なども生かしながら、そこにしかないものを考える。依頼する側も、忠弦さんなら何か面白いものをつくってくれると期待してやってくる。そして忠弦さんは、その期待に全力で応えようとする。

お金や材料が十分でなくても、いま手元にあるもので何ができるかを考え、自分たちなりの方法を探してつくる。知美さんはそこに、忠弦さんが強く影響を受けてきたガレージパンクの精神を感じているという。パンクとは見た目を鋲や革で飾ることだけではない。与えられた条件に従うのではなく、あるものを使って自分の手でまだないものを生み出すことだ。

例えば、同じ萩市内にある蕎麦屋「さるのこしかけ」の看板。店主は毎朝水を汲みに行き、蕎麦を打つだけでなく、できることはなるべく自分の手でつくる人だ。忠弦さんは、その店主のものづくりの精神と共鳴し、使い込まれた一枚板に、農家の友人の土蔵にあった錆びた金属片や古道具の一部を組み合わせた。そうして生まれた看板は、板壁や麻の暖簾がある店先に自然に馴染みながら、店主の生き方まで表しているように見える。

少し離れた海辺の須佐にあるイカ料理店「梅乃葉」の看板を頼まれたときも、店主と話し、その土地の由来をたどるうちに、スサノオノミコトにゆかりのある場所だから「拝めるもの」にしようと、イカのモニュメントをつくることなった。

忠弦:石や木でつくるとお地蔵さんみたいになるけど、鉄ならエッジが効いて、かっこよくなる。つくり出したら、もう止まらなくなって脚の関節をすべて動くようにして。やりすぎました(笑)。

知美:言われたことの何倍ものクオリティでやるんですよ。普通ならどこかで調整するのかもしれないけど、手を抜くことがないから、毎回1000%みたいな感じで、できることを全部ぶっ込んでいく。だからこそ、信頼を置いてもらっているんだと思います。

依頼者の思い、土地や建物の背景とそこにある素材、そして自身のアイデアが化学反応を起こして、最初には想像していなかったものが生まれる。イカのモニュメントも、近隣の鉄工所から分けてもらったスクラップをつぎはぎし、何日も何日もかけてつくり続けた。忠弦さんのつくるものが一目でそれとわかるほど「らしさ」に満ちているのに、決して独りよがりには見えないのは、そういう地産地消的な一面を持っているからだろう。自由につくっているようでいて、その出発点にはいつも誰かの思いや、土地に積み重なってきた時間がある。それらを受け止めながら、惜しみなく手間をかけて依頼者の想像を超えていく。そこに忠弦さんのものづくりの魅力がある。

忠弦さんは伝統的な技術をもった職人だが、つくりたいものをつきつめてしまうアーティストでもある。忠弦さんにしかつくれないものを、仕事として持続させるにはどうすればよいのか。中原木材はいま、その両立を可能にする新しい形を探ろうとしている。

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異素材を組み合わせた造形や、無骨に見えて細やかで洗練されたデザイン、予定調和を少し裏切るような意外性に、思わず目が留まる(写真:制作室 / 中原木材)