アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#161
2026.10

シネマと本とパンと2 まちの「あいだ」を潤す 
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1 家具をつくる、風景をつくる  山口県萩市
6)つくることを、いま一度中心に

ひとつには、アトリエの使い方だ。これまでのように、さまざまなイベントを行う場というよりは、家具をつくるという原点につながることをやっていきたいという。

忠弦:ものとは関係のないイベントをするのも違うなと。やっぱりここには、自分のつくったものがないとよくないなと思って。

場を開き、人と過ごす時間が増えるほど、自身が集中してものをつくる時間は減っていくというジレンマもあった。人が集うことをやめたいのではなく、自分のつくったものから、人や出来事がつながっていく場所にしたい。そのためには新しいものを考え、手を動かす時間を確保することも必要となってくる。

最近は、大きな家具だけでなく、手頃なものをつくったり、他のアイテムも試作している。求めやすさと使いやすさを考えて小ぶりにした定番の三角椅子。デッドストックのファブリックを張った、新作の小さな背もたれ椅子。木と金属を生かした、少しハードなアクセサリー。
これまで、ひとりで仕事をしてきた忠弦さんだが、定番の形については、ほかの人と分担してつくれる体制を整えようとしている。

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そしていま、忠弦さんのもとには新たに思いがけない仕事が託されている。神楽の舞台に掲げる「岩戸開き」の絵を収める額の制作。枯れてしまった吉田松陰ゆかりの「涙松」を磨き、後世に残る形にする仕事。広島では、枯れた被爆桜をこれからどう残していくかという話し合いにも参加した。長くその土地に立ち、記憶を宿してきた木が役目を終えたあと、その記憶を別の形にして次の時代へ手渡す仕事。そうした依頼が相次いだことに、忠弦さんは自身の歩みと時代の移り変わりが重なるような感覚を持ったという。

伴走してきた知美さんは、ここへ来てからの8年余りを、忠弦さんのつくるものと、その背景にある世界を伝えるために「いろいろな実験をしてきた期間」だったと振り返る。

知美:家具職人としての要素と、アーティストというか一つのものを生み出す要素。その二面性があるところが、いわゆる家具職人とは少し違う面白さであり、苦悩するところでもあると思うんです。いまは本当に一人でつくっているから、家具のほうは、もう少し量産して分担できる体制をつくりたい。世の中とうまく融合できるところを探して、忠弦さんのやりたいことを広げていくのが、これからなのかなと思っています。
物事が一周まわったような出来事も重なって、じゃあ次のターンをどうしていくか、という流れにいるのかなっていうのは、いつも感じています。

次に目指すのは、人が集う流れを止めることなく、ものをつくる場所としての深度をさらに増すことだ。思い切りつくり続けるために、現実的な足場をどう整えるか。簡単な道ではないけれど、迷いや失敗を含むカオスな過程も隠さず、ユーモアを交えながら開いていきたい。それが知美さんの考える、次のターンだ。

忠弦:俺はそこまで何も考えてないから。

そう言いながらも忠弦さんは自分にしかつくれないものを、これまで以上に深く掘り下げようとしている。

忠弦:流行とか常識はいらない。やったことがなくても、自分の好きなものをつくる。ヒントや助けになるメッセージは、必ずどこかから降ってくる。それをちゃんとキャッチする。

アトリエで口にしたその言葉に、忠弦さんのものづくりの芯が表れているように思えた。

土地にあるもの、人から託されたもの、偶然巡ってきたものを受け取り、そこから、まだ世の中にないものをつくる。その積み重ねが萩のまちのあちこちに点在し、それぞれの場所の景色をつくり、また次の出会いや仕事を連れてくる。
忠弦さんはいまもう一度、つくることを中原木材の中心に据えようとしている。それは人とのつながりを閉じることではなく、むしろ、その循環を続けるためなのだろう。これから先もきっと、ここから生まれたまだ名前のないものが、萩や近隣のまちに新しい風景をつくっていく。

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現在、プロダクトチェアの試作も行っている。市や地元企業と共同開発中の萩の素材を用いた制作だ

中原木材 https://www.nakaharamokuzai.com/

取材・文:竹添友美(たけぞえ・ともみ)
1973年生まれ、東京都在住。会社勤務を経て、2013年よりフリーランスの編集者・ライターとして活動。地域や暮らしにまつわる書籍・雑誌などの企画・編集・執筆を手がける。これまでに担当した書籍に『たくましくて美しい 糞虫図鑑』『たくましくて美しい ウニと共生生物図鑑』『たくましくて美しい 淡水生物図鑑』(以上、創元社)、『小菅幸子 陶器の小さなブローチ』(風土社)。『いつか好きになるかもしれないフリージャズのために』(月ノ座)など、私家版の小冊子も鋭意制作中。
写真:津久井珠美(つくい・たまみ)
1976年京都府生まれ。立命館大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。クライアントワーク以外に、人々のポートレートや、森、草花など、自然の撮影を通して、人や自然、写真と向き合いながら作品制作を行っている。https://www.instagram.com/tamamitsukui/
特集編集長:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・
編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、言葉や本に関するワークショップや展示、イベントなどを行
う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本–京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定
部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市
で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノ
ニマ・スタジオ)など多数。青幻舎のサイトにて『女性と工芸 1900-1945』連載中。滋賀県陶芸の森評議員。
2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。
https://note.com/seigensha/m/m03df2469f0f4