(2026.10.05公開)
わたしは絵を描いています。
おそらく絵を描く人は、さまざまな絵の具と筆、クレヨンやパステル、鉛筆、またいまでしたらコンピューターを使う方も多いのではないでしょうか。
わたしも、ごくふつうの水彩絵の具を使ってはいますが、それを描く道具として、筆ではなく、もしかしたらあまり人が使わないものを選びました。スポイトと、紙の切れはしです。

まず、スポイトについて。
あらかじめ、水彩絵の具を水に溶かしたものを作り、プラスチックの小さな容器に入れます。この容器にはフタが付いているので、一度に使い切れない量を作っても、蒸発させずに何日も持たせることができます。
そして、そのうすめた絵の具を適量スポイトで吸いとり、紙にぽとりと落とします。そうすると、紙の上に、色つきの透明な水玉ができます。それがまるで宝石のように美しい。

ただし、この状態だと乾くのに時間がかかりますし、濃すぎるので、スポイトで吸いとり、量を調整します。そうして、音楽に合わせて踊るなどしているうちに、乾いて、きれいな丸ができるというわけです。
こういう描き方をすると、筆で描くよりも乾くのに時間がかかりますが、それによって、キワの部分が濃くなる。これを、水彩画用語でハードエッジというそうです。また、絵の具を数種類混ぜていた場合、丸部分とフチがべつの色に分離し、少し面白い見え方になることもあります。
また、スポイトを使って描くことのできる形として、半円もあります。同じような要領で描くのですが、うすめた絵の具をぽとりと落とすときに、半分紙で隠すことで、半円にするのです。わたしは、丸も好きですが、半円という形も大好きです。とてもかわいい。

それから、紙を立て、上からスポイトでうすめた絵の具を流していく手法を使うこともあります。
規則的な幅を保ちながら絵の具を流し、ストライプ模様を作り、乾かないうちに紙の縦横を変え、同じことを繰り返す。そうすることで、グリッド状に色がつけられ、窓のような余白ができます。そのできた余白に、なにかを描く……なにを描くかはいろいろですが、この、窓作りによる制作も、ときどき行っています。

さて、もうひとつのわたしの道具、紙の切れはしについて。
なんという道具っぽくない、たよりないものとお思いになるかもしれませんが、自分にとってはこれも大切な道具です。
少し厚めの水彩用紙なのですが、これを小さく切ったものを、うすめた絵の具に付けて、さっと伸ばします。そうすることで、四角形やひし形ができます。切れはしの幅によって、小さな四角形や、大きな四角形になります。四角形を二重に重ねることで、星をつくることもできます。
また、紙の角部分を使って、絵の具を伸ばすことで、線ができます。
さらに、伸ばさずに、ちょんとただ置くように切れはしを使うことで、小さな小さな点にすることもできます。
このようにして、スポイトと紙のきれはしを使ってできる、丸や半円、四角形、ひし形、線、点という単純な形たちを組み合わせることで、絵を描いています。ただし正確には、筆を使わなければどうしても仕方ないところは、筆も使います。

最後に。なぜ自分が、そのような絵の描き方をしているのか、について。
ひとつには、筆を使うことによってどうしても出てしまう、なにか筆を使ってますよ、という感じを消したいからなのです。水彩画という、人の手が残りやすいものを、見えにくい感じにしたい。
筆は便利です。器用であれば、あるいは習熟すれば、好きになんでも描けてしまうかもしれません。しかし、それがある意味で罠だと思っています。
不自由であること、制限のあること、なんでも描けるわけではないこと。それが大事で、わたしの絵を描くために必要なのではないか、そう思っています。
好きに描けないからこそ、生まれるのです。わたしの絵が。

qp(きゅーぴー)
画家。 近年の個展に「白鳥日記」(2026)など。400店の喫茶店を巡って水を撮影したフォトエッセイ『喫茶店の水』(左右社)を出版。
Instagram: @qp_akarusa


