アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#158
2026.07

移住と仕事のいま2026

1 海外からの移住 異なる暮らしを接続する 奈良県東吉野村

5)何でも、自分たちでつくってみよう
フランシスとゆふこ2

村内の仮住まいで暮らし、窯もつくって陶芸を始めたが、二人が魅せられた理想的な環境が大豆生地区だった。「自宅のほかに窯と工房のスペースが必要でした。見つかった古民家を託していただくため、一年半ほどかけて所有者さんとゆっくりと信頼関係を築きました」とフランシスさん。それこそが、現在の「Okuyama House」。代々300年以上にわたって、所有者に代わり山林の保護や管理をしてきた山守(やまもり)の家で、十分な広さだった。

フランシス :  2021年から片付けや改修を始めました。仮住まいの家のほうで窯を建てていたので、それを解体して移築しなければなりませんでした。地域の方たちが20人ぐらい来てくださって、軽トラ5台ほどで行ったり来たりしたんです。
以前は物置きとして使われていた建物を工房にしました。壁の骨組みはそのままに、窓と壁を自然光が生かされるデザインに変えたんです。村の製材所でB品になっていた杉や檜の板を安く分けていただき、古い瓦屋根の解体から出た土を半年から1年かけて壁土をつくり、左官仕事も実践しながら学びました。
工房と窯のスペースの地面の高さを揃えようと、内側で5トン、外側で25トンの砂利を、一輪車を使って二人で運びました。コンクリートを打つのは二人では無理だろうと、友人や近所の方が手伝いに来てくださいました。窯のスペースの屋根は、山で自らチェーンソーで製材し、一人で出した8メートルの杉の梁を使っています。

フランシスさんは、その後の家屋や陶芸スペースなどの改修にあたって、陶芸やものづくりにとどまらない“才能”を発揮し始める。

ゆふこ :  本格的な改修だったので、私は「自分たちだけでできるのか」と心配だったんです。でも、フランシスは独学で調べて、パワフルに実現していきました。普通は「自分にできるかな」って考えて、やるか・やらないかを決めるものだと思いますけど、そういう思考回路がないようで(笑)。しようと思ったら『自分でやってみよう!』と、方法を探すんです。自分でデザインして、山に入って木を切り、切った木をチェーンソーで製材して、改修の材料にしました。溶接などもYouTubeを見て実践するんです。

フランシスさんは改修のプロセスなどを、生き生きと語ってくれた。「最初は『つくればいいんだ』と思ったけれど、その後『うわあ、これは大変な仕事だ』って思いましたよ」と、朗らかに笑う。
「この家は私のお気に入りの場所で、まるで大きな遊び場のようです」と、フランシスさん。彼は村や地域の環境を吸収しながら、子どもの頃の田舎暮らしに戻ったかのように、何でも自分でやって楽しめるという才能を開花させたのだろう。

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そんな姿勢を、村の人たちも快く受け入れている。改修で使う素材の多くは、地域の人たちから提供されたものだ。

フランシス :  吉野地域にある古い木材工場の方が「君はすごいものをつくっているから、好きなだけ木材をあげるよ」と言って、20トンもの木材を提供してくれたんです。とても美しい、樹齢数百年という木材も含まれていました。これは古い工場からの贈り物だと感じています。
また、素材だけではなくて、村の高齢の職人さんから技術や知恵も教わっています。左官や石積みなどの技術、鉋などの道具の使い方などを教わって、建物のつくりかたを学びました。

地域の人たちにもプラスになるような場づくりを模索しながら、今は環境を整えることや、地域の人に向けた陶芸クラスの運営を優先させていて、自らの作品づくりはあまりできないそうだが、二人は地域の方たちとの交流を楽しみ、さまざまなことを学んでいる。
「ここで与えられた機会を生かしていくことが、おもしろいんです」と、ゆふこさん。完全にこもって作陶に没頭するライフスタイルではなく、二人の暮らしには、良い意味で“マイペースだけではない彩り”が、ある。

作家の友人が、欠けてしまった茶碗の金継ぎをしてくれた際には、お礼としてご飯茶碗と交換するなど、物々交換もしている。「いろいろな作家さんが近くに住んでいて、気安く物と物を交換するという循環ができるのが、この村のいいところだなと思います」と、ゆふこさん。

フランシス :  陶芸は大好きな仕事ですが、集中力やエネルギーが必要なので、家づくりの作業を通じてリラックスしているのだと思います。大切なのは、いろいろな作業をすることで自分の状態が変わることなのかもしれません。

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陶芸の工房は心地良く、センスを感じさせる。毎朝茶がゆを炊いていたという釜はそのままに。作業場の屋根はまだ仮設だが、それも良い感じだ

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天井から石積み、建物の高さ調整まで何でもしている。どの仕事もていねいで美しい