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アネモメトリ -風の手帖-

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#99
2021.08

未来をまなざすデザイン

4 学びを響き合わせて、新しいうねりへ

96号から3回にわたって、デザイナー城谷耕生さんの仕事を取り上げてきた。4回目の今回が最終回となる。
城谷さんは東京やイタリアを経て、地元の長崎県雲仙市小浜に戻り、2002年、STUDIO SHIROTANIを設立。各地の伝統文化の再生をライフワークに、小浜をはじめ、近隣地域のプロジェクトに取り組んできた。地道で真摯な仕事はかかわった人たちに影響を与え、その思考と哲学がじわじわと浸透していった。
城谷さんが活動を始めて十数年経った今、小浜のまちの変化は目に見えるものとなっている。ひなびた温泉地だった小さなまちには、今では東京をはじめ、全国各地から集まってきたデザイナーや料理人、研究者など、多彩な人たちが点在している。実験的な新しい業態の店舗や、温泉の地熱エネルギーを用いた研究も進められるなど、日本でも有数の文化的でサステナブルな地域となっている。そのうねりは雲仙へ、島原半島へとつながっていきそうな気配もある。
その動きを引っ張ってきた城谷さんは、2020年12月に53歳で急逝された。
その報を受け、わたしたちは亡くなる前に始まっていた長崎県美術館での城谷さんの個展を訪ね、小浜のスタッフ、近隣の住人などに話を聞きつないできた。そこで浮き彫りになってきたのは、城谷さんの影響力の大きさである。その言動は長崎から遠く離れた場所にも届き、発展的に受けとめられていた。
最終回となる今回は、城谷さんがデザイナーになる以前にも目を向けながら、城谷さんの軌跡を少し引いたところから眺めてみたい。
もうひとつ、今号ではデザイナーとしての城谷さんを決定づけたイタリアデザインの巨匠、エンツォ・マーリとのかかわりも見ていきたい。マーリは2020年10月に亡くなった。視覚芸術の研究に始まって、家具やプロダクトのデザインなど多岐にわたる活動を精力的に続け、また伝統工芸から工業製品まで、さまざまなものづくりや流通に携わる人々とともに、社会における創造的なものづくりのありかたを模索してきた稀有な存在だった。