アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#82
2020.03

自分でつくる公共 グランドレベル=1階の試み

東京・森下 「私設公民館」喫茶ランドリー 2
3)喫茶ランドリーの1日 遠方から、犬といっしょに

ご近所の常連さんがやってくる一方で、遠方から足を伸ばしてくるお客さんも多い。

昼過ぎからずっと半地下の「モグラ席」で熱心に書き物をしている若い女性がいた。安重春奈さんは大学3年生。喫茶ランドリーに来るはこの日が初めてで、田中元子さんの著書『マイパブリックとグランドレベル』(晶文社)を読んで興味を持ってやってきたそうだ。
山口出身で、大学では法律を勉強している。まちづくりに興味があって、将来はそれをダイレクトに生かすよりは、場所づくりにかかわるかたちで学んだことを生かしたいと言っていた。安重さんは日が暮れるまで作業を続けていた。

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塾の先生と子どもたちが店の近くの公園に遊びに行った頃合いで、犬を連れたひとが入ってきた。犬!? 「どんなひとにも自由なくつろぎ」は、ひとではなく動物もふくまれるのだった。この日は犬を連れたひとが3組もあらわれた。柴犬の雑種にトイプードルなど小型犬ばかりだったが、スタッフのモコさんによると、シェパードを連れた客が来たこともあったという。
「こんな大きいシェパードを連れたひとが『犬もいいんですよね?』って来て、自分のなかで『OK』かなって迷いましたが、うんOKって。しっぽをふるだけで隣のひとのカップに当たっちゃうけど、隣のひとは何も言わなかったから、いいかって」。
モコさんいわく、「とにかくまず許しちゃう」のだそう。何が来るかはわからないけれど、来たときは考え、受け入れよう、とグランドレベルの田中さんとも話しているという。「こういう場をつくりたいと全国から視察で来るひとが多いけど、パッと見てマニュアル化してつくれるような場ではないと思います。ここでは、ひとがつくるグルーヴが大切だから」というモコさんの言葉がリアルに響く

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石川さんとはっち。ある日の夜、散歩の途中で立ち寄り、その場に居合わせた初めて出会ったまちのひとたちと意気投合。帰るときにはみなSNSでつながり、その後も交流が続いている / 上からプリン、そしてミルク、メープル。別々にやってきて一緒になごみ、写真撮影も

日がとっぷりと暮れて子どもたちが帰って静まり返ったころ、おしゃれな感じの人連れの女性がやってきた。近所のデザイン事務所に勤める魚住桃子さんと前に勤めていた会社の先輩。この日はいただき物のケーキを一緒に食べるためにやって来たそうだ。コーヒーだけ注文して持ち込んだケーキを食べているという姿があまりにも自然で驚いたが、この店では日常なのだろう。
魚住さんは帽子のデザイナーで、この店につくった帽子を販売してもらっている。いろんな作家の小物が置いてあるので、自分の帽子も扱ってもらえないだろうかと声をかけたら、「いいよ、いいよ」と置いてもらえることになったそうだ。
喫茶ランドリーでは「近所のがんばっているひとを応援したい」と、手づくりの雑貨類を委託販売している。一切マージンはとらず、売り上げはすべて作家側に。その目的は、お金だけでなく、ここに置くことで多くのひとの目にふれ、何らかのきっかけになればという思いがあるからだ。

こうして、コーヒー1杯さえ飲めば、子どももお母さんも犬もおじいさんもおばあさんも居ることを許される。話を聞いたひとがみなが口にした、居心地がいいとか、許容量が大きいという雰囲気を一言で表すならば「みんなウェルカム」という言葉に尽きるだろう。

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季節に合わせて置いてもらう帽子も変えている / 魚住さんは以前アパレルメーカーで働いていた。そのときの先輩はこの日、横浜からやってきたが「こんな仕事のやり方があると気づき、有意義だった」と感激していた。さっと来て、大事なことをすっと話せる場でもあるのかもしれない