アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#82
2020.03

自分でつくる公共 グランドレベル=1階の試み

東京・森下 「私設公民館」喫茶ランドリー 2
4)喫茶ランドリーの1日 「家族」的な第2の家

オープンして2年あまり、この店はみんなウェルカムな場として着々とこの地に根づいてきた。さらに、ここから新たな人間関係や場が生まれつつある。

子どもたちの塾の先生をしていたのは、三宅加織さん。彼女もご近所さんで、住宅街のなかで子どもたちの塾をしてみたいという小さな夢を田中さんや大西さんに話しところ、三宅さんの会社のプロジェクトとして、6月から実験的に教えられることになった。とても教え上手なようで、子どもたちは口々に発言し、目を輝かせて授業に参加していた。
そして、夫の三宅悠大さんもまた、喫茶ランドリーによく立ち寄る。レジカウンター奥の「スタッフ席」にパソコンを持ち込み、ファイナンシャルプランナーの仕事をすることも多い。あまりによくなじんでいて、最初はスタッフかと思っていた。

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三宅加織さん、悠大さん。仲良しで笑顔の絶えない2人

三宅加織さん、悠大さん。仲良しで笑顔の絶えない2人

このお店に初めて来たとき、2人は自分たちの結婚式の招待状をつくる作業をしていた。その光景を目にしたスタッフは、すぐに話しかけ、お祝いのケーキをプレゼント。それがきっかけでここをよく訪れるようになった。今では塾だけでなく、お客の有志で立ち上げた「喫茶マーケット」にも関わっている。
2人にとって、ここはどんな場かと聞くと、間髪入れず口をそろえて「第の家」と答えた。こことの出会いは、親しい友人や家族ができたような感覚に近いようだ。

———喫茶ランドリーのスタッフのみなさんは、僕らにとってはお母さんのような存在。たまに、夕飯をいただくこともあったり、気を使わない親戚の家って感じです(悠大さん)。
———ここがなかったらもっと早く地元に戻っていたかも。ここがないと、子育てがしづらくなる方も多いと思います(加織さん)。

口々に出る言葉を聞くにつけ、この場がいかに2人にとって思い入れのある場になっているのかが伝わってくる。さらに2人の夢は広がる。

———将来はいっしょにまちに教室みたいな場を開いて、ひとが集まれるようににしたいんです。子どもだけでなくて、大人もみんな集える場にして、喫茶店もやってみたい。

生まれ育った土地を離れ、新たな場でその地域のひとたちと関係を持つことは、きっかけすら得ることが難しい。ところが、こうやって気軽に立ち寄れる場や世間話ができる場があると、まちに顔なじみをつくりやすい。さらに、職場や家庭だけの生活が息苦しくなったとき、このような居場所がまちにあり、ちょっと話せる知り合いがいることは、どれだけひとを救うことができるだろうか。

喫茶ランドリーにもそのような側面があるが、三宅夫妻も話してくれたように、もっと大きく生活や人生に関わる場所であることがわかる。まさに「第2の家」のような、サードプレイスとは一線を画す場であり、空間となっている。 

話を聞いている最中、お客さんがやってきた。たまたまレジに誰もいなかったので、2人が気づいてレジに立った。お客さんに「こんにちは」と声をかけ、会計をし、手慣れた手つきでコーヒーを入れる。何も知らなければ2人のことをこの店のスタッフだと思うくらい、自然なようすだった

話を聞いている最中、お客さんがやってきた。たまたまレジに誰もいなかったので、2人が気づいてレジに立った。お客さんに「こんにちは」と声をかけ、会計をし、手慣れた手つきでコーヒーを入れる。何も知らなければ2人のことをこの店のスタッフと思うくらい、自然なようすだった