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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#81
2020.02

自分でつくる公共 グランドレベル=1階の試み

東京・森下 「私設公民館」喫茶ランドリー1
2)豊かな「1階」のありかたを見つける

一言では伝えきれない、とらえどころのないお店をつくりだし、運営しているのは、田中元子さんと大西正紀さん。2人は現在、「1階専門のデザイン会社」グランドレベルを営んでいる。「私設の公民館」というコンセプトや、ノートにあった名刺のイメージから、行政やNPOが関わっているのかと思いきや、小さなベンチャー会社が始めたというから驚きだ。

2人は、そもそも違う仕事をしていた。大学で建築を学んでいた大西さんと、ある日建築の魅力に取り憑かれ、独学し始めた田中さんは、2004年から建築ユニットmosaki(モサキ)として、建築にまつわる企画や編集など、メディアづくりを通じて建築の魅力を発信し始めた。
一方で10年ほど経った頃から、田中さんは、自分がやりたい、あったらいいなと思う場をつくったり、開いたりする実践を重ね始める。後ほど詳しく紹介するが、事務所に小さなバーカウンターをつくったり、オリジナルの屋台をつくり、まちへ出て無料でコーヒーをふるまったりするようになる。それもすべては「喫茶ランドリー」へとつながる足がかりとなるわけだが、まずは大西さんに、これまでのいきさつを伺ってみることにした。

大西正紀さん

大西正紀さん

———大学院を出て、僕は建築家になろうと最初ロンドンの設計事務所に勤めていました。田中は建築が大好きで、ただ独学ですから、非常に純粋な目で、まちや建物を見て感じていたと思います。
向こうで生活していて驚いたことのひとつは、一般のひとでも建築の楽しさとかまちづくりについて普通に話をしていることでした。土壌が日本とはまったく違うというか、日本のレベルの低さを痛感して、それで帰国することになった時に、2人で一般のひとに建築のおもしろさを伝えるメディアをつくる仕事をしようと思いました。そんなきっかけで、mosakiというユニット名の活動が始まりました。

では、メディアづくりをしていた2人がどうして”まちの1階”に着目することになったのだろうか。きっかけとなったのは、国ごとにまちの1階、建物の1階のつくられ方が違うという発見だった。

———海外に行くこと好きで、ある数年の間に、アメリカのポートランドやデンマークのコペンハーゲン、台湾の台北やUAEのドバイなどを旅行することがありました。そういう都市を巡って、日本に戻ってくることを繰り返していて、グランドレベル(まちの1階)がなにか違うぞ? って、あるとき気づいたんです。
まず、海外は、中心部でなくたってまちにひとがいる。観察していくと、日本の1階のつくられ方が違うな、とか、その背景には1階づくりにルールがあるらしいぞ、とか、いろんなことがわかってきました。

その後も、さまざまな海外のまちをリサーチしてみると、まちの1階、建物の1階というものは、ひとが佇める場所としてつくり、それこそがまちの活気、魅力になっていくことが、世界の共通認識になっていたというのだ。
そこから2人は、豊かな1階づくりがまちを良くし、ひとの幸福度上げるという思いを日本に根づかせるために、「1階専門のデザイン会社」グランドレベルを2016年に設立した。

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喫茶ランドリーの1階は、外と中を行ったりできるようになっている。オープンしてから、○○大学の研究室(?)が自主的に手がけてくれた

喫茶ランドリーの1階は、内外を行き来できるように、大きなガラス戸にリノベーションした。数ヵ月前、東京理科大学の栢木研究室の学生たちがデザインした家具の展示会が行われ、その後も一部の家具が使われている。ギャラリースペースとしての利用も可能