アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#81
2020.02

自分でつくる公共 グランドレベル=1階の試み

東京・森下1 「私設公民館」喫茶ランドリー
3)「まちの家事室」のある喫茶店

喫茶ランドリーの周辺は、かつて隅田川の水運を利用した物流拠点があったまちで、工場や倉庫が多いところだった。
喫茶ランドリーが入るビルは、元々「今健ビル」という名の築55年のビルだった。1階は手袋の梱包工場で、2、3階はオーナー一家の住居だった。創造系不動産という会社に建て替えるべきか、使い続けるべきかという相談があり、さまざまなプランが検討され、リノベーションして使い続けられることになった。その時に、具体的にどのような使い方をするべきか、設立したばかりのグランドレベルに相談が舞い込んだ。
では、どのような経緯で、喫茶ランドリーは発想されたのだろう。ひとつのきっかけは、田中さんと大西さんが少し前に訪ねたコペンハーゲンのランドリーカフェだった。

———ランドリーカフェが世界中にあるのは知っていました。でも、その多くはランドリーがメインで、そこでコーヒーも飲めるよというものが多くて。でも、コペンハーゲンで見たのはそうじゃなかったんです。入ったら、ランドリーは見当たらない。奥のトイレの脇にある。よくよく客席を見ていると、ランドリーを持ってきているひとも、そうでないひともいる。赤を基調にしたかわいいインテリアのなかに、赤ちゃんがママにあやされていて、パソコンで仕事をしている男性がいて、作業服のおじさんがコーヒーを飲んでいて、大学生たちが宿題をしている。これは大変なことだ! と(笑)。まちに住んでいる、すべてのタイプの人々がそこにいるわけです。日本だとスタバなどに行くとみんな一様にパソコンをやってたり、喫茶店に行ったらじいちゃんとばあちゃんだけでしょ。でも、こういう存在の仕方もあるんだなと気づいたんです。

こうして、お茶をするだけではなく、洗濯はもちろん、さまざまな目的を持ったひとが集うことで、いろんなひとが混ざり合う場が生まれ得ることを発見した。
さらに、喫茶ランドリーの大きな特徴は、ランドリーにとどまらず、アイロンやミシンなども置いた「家事室」をつくったことだろう。このアイデアは、どのようにして生まれたのだろうか。

———その後、紆余曲折があって、1階の使い方をコンサルするということから、自社でランドリーカフェを運営することになりました。でも、カフェなんかやったこともないから、不安なことだらけ。そこで、純粋にコインランドリーを入れて、そこで収益を安定化できないかと思っていました。けど、お金が追いつかなくて。コインランドリーの機械だけで何千万もするので、完全に予算オーバーなわけです。やっぱりやめるか、とうちひしがれていたら、建築家のひとが「あなたたちは、コインランドリー事業をしたいわけじゃないでしょ」って。それで目の前が開けました。
つくりたいのは、まちに暮らす人々誰もが気軽に来られる喫茶店です。だから、コインランドリーの機器ではなく、普通の洗濯機でいい。でもそれだとちょっと格好悪いから自分たちが買える範囲の一番いいやつを探そうと、すぐにいくつかのショールームを巡って、結果、スウェーデンのエレクトロラックス社のものを置くことにしました。
その帰りにカフェに行って、田中が裏紙に「まちの家事室」って書いたんです。「洗濯ってみんなお家でやっているけど、そんなのはこの50年ぐらいの話。昔の家は家事室って部屋があったけど、今の住空間は狭いし、そんなものはない。だったらアイロンも、ミシンも置いてみない?」って。「”まちの家事室”のある喫茶店」というコンセプトが、そこで決まりました。

その後、設計と工事が進み、2017年12月にプレオープン、2018年1月5日にグランドオープンした。
そういった経緯を聞いてから、あらためてこの場を見渡してみると、最初は面食らっていた光景が違って見えてきた。他のお客さんが洗濯をしたりミシンを使って何かをつくったりしているのが自然と目に入ってきて、家事やものづくりのようすを見ているうちに、自分も何かやりたくなってきた。
家でやることを外に持ち出してやることは、息抜きや時間を有効活用するためだけでなく、「自分も何かやってみよう!」とやる気を引き出してくれたり、「あのひとあんなことが得意なんだ!」という思わぬ発見をもたらしてくれる効果があるのではないだろうか。

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モグラ席の壁には、リノベーションを施す前の建物の写真が展示されている / ミシンは「家事室」の外にも持ち出して使うことができる