アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#81
2020.02

自分でつくる公共 グランドレベル=1階の試み

東京・森下 「私設公民館」喫茶ランドリー1
5)コミュニティづくりではなく、ニュートラルさを

正直、訪れる前はここはいわゆる「コミュニティカフェ」のような場なのだろうと思っていた。また、冒頭で取り上げた喫茶ランドリーの来訪者ノートでも、そこには「コミュニティカフェのお手本だ」といったコメントがいくつも書かれていたから、そうなのだろうかという印象を持った。しかし、実際にお話を伺い、お店で一日を過ごすうちに、その印象は覆された。大西さんはコミュニティカフェとの違いをこのように言う。

———0歳から100歳まで、本気でまちに暮らすいろんなひとたちに、気軽に使ってほしいと思っています。だからこそ、店構えにしても、なかのあらゆるデザインについても、ニュートラルに「誰でもお茶どうぞ」と伝えることが、一番大切です。なのに、全国でコミュニティのために場所をつくるぞ! と意気込むひとたちの多くは、そういう意識がありません。まず、「コミュニティカフェ」なんて名前をつけてしまったら、ひとは入って来づらいじゃないですか。たとえ、そこにひとが集まるようになっても、コミュニティはできたとたんに壁になるから。また、そこには新しいひとは入っていくことはできません。外から見たひとにとっては「私には関係のない場所だ」って思わせてしまうんです。だから、喫茶ランドリーでは、誰かが集いはじめても、常にニュートラルな状態に戻すことを心がけています。

たしかに、コミュニティカフェの多くは、地域の人々に対して居場所をつくるといった目的でひらかれているところが多い。公民館もまた地域のひとのためにある。しかし、喫茶ランドリーは違う。ここの目的は「地域のため」というだけではなく、そこに暮らす人々が能動的に動き、自分がやりたいことを実現したり、ひとに与えることで、自分やまわりを豊かにしていくことだ。喫茶ランドリーという「私設の公民館」は、その先に新しい公共性を実現しようとしている。

お店に置かれているアルバムを開くと、コーヒーを一杯ゆっくり飲むことから、パン捏ね大会、家族のパーティー、犬の誕生日会、ビジネスの勉強会と、いろいろなことが許されているシーンで溢れている。たしかに、
コミュニティカフェでも公民館でもない。来たひとが各々で好きなことがやれる場だ。
実際一日を過ごしてみると、いろんなひとが同じスペースにいながら、全く違うことをしていても何も気にしなくていいという雰囲気があり、とても居心地がよかった。だからこそ、地域のひとも一見さんも、どんなひとでもフラットに心地よくいられる。

喫茶ランドリーでは、実際にどんな光景が日々現れるのだろうか。次号では、喫茶ランドリーに1日密着し、田中さんのお話を交えつつ、スタッフやお客さんの姿からどんな場が生まれているかをレポートする。

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近所で「レコードコンビニ」を営む進藤康隆さんがレコードをセレクトして置いてくださっている / 犬連れのお客さんたちの撮影大会も。詳しくは次号以降で

取材・文:太田明日香
兵庫県淡路島出身。編集者、ライター。著書に『愛と家事』、企画・編集を担当した本に『よい移民』(ともに創元社)。『女と仕事』(タバブックス)、『彼岸の図書館』(夕書房)に寄稿。『朝日新聞』読書サイト「好書好日」、『仕事文脈』(タバブックス)などで執筆。https://editota.com/

写真:矢島慎一
1975年埼玉県秩父市生まれ。山岳専門誌やアウトドア誌で撮影を担当しているカメラマン。仲間とともに山や沢、海で遊び、その様子を記録している。

編集:村松美賀子
編集者、ライター。京都造形芸術大学教員。近刊に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』。主な著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など。