アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#81
2020.02

自分でつくる公共 グランドレベル=1階の試み

東京・森下1 「私設公民館」喫茶ランドリー
4)能動性を引き出し、与え合う

オープンした最初の1ヵ月のお話を伺うと、今とは全然雰囲気が違ったそうだ。スタッフは田中さんと大西さんだけで、今のようなフードメニューの種類はなかった。お店のカウンターに設置された写真アルバムにオープン当初の写真があったので、見比べてみると、その違いに驚いた。当初はお店のなかはショールームのようにがらんとしていて、外には植木鉢もなければ、看板すらなく殺風景だった。
今現在のひとの温かみのある雰囲気は、オープンしてから、お客さんや働くスタッフたちが、手を加え、モノを加え、常に変わり続けていくなかで、育まれてきたものらしい。どうしてそのようなことが起こったのだろうか。
田中さんと大西さんは、いろいろなひとが出会い、混ざり合うことで何かが起こるようにさまざまな「補助線のデザイン」を仕掛けているからだと言う。では、喫茶ランドリーにはどんな補助線が引かれているのだろうか。

———最初から完璧につくられた空間は、ひとに自分が手を加えることはできないと思わせます。でも、適度につくり込みすぎていない空間に、無造作に雑貨が売られていたり、飾りがピンで止まっていたり、昨日なかった本棚が今日できていたりするのを目にすると、一気にそのひとと空間の距離感は近くなるものです。そのような状況で、「よかったら、なんでも自由に使ってくださいね」と、僕らは常に声をかけ続けます。つまり、加わったり、関わったりできますよ、というメッセージを空間にも接客にもつくっておくわけです。
例えばオープンしたときメニューはほぼゼロだったんですが、すると最初の常連さんが、やばいんじゃないの? と思ってある日手づくりのケーキを持ってきてくださいました。そんな人間的なやりとりと自然なノリで、明日から売りますといったことが起こるんです。

ひとが関わりやすいような隙があることで、相手の「何かしたい」という気持ちを引き出すことができる。実際に、日々メニューの種類が増えたり、お店がいろんなことに使われている。そこにはどんなコミュニケーションがあるのだろうか。

———普通のカフェだとあらかじめメニューが決められていて、アルバイトのスタッフは与えられたものをつくって提供するものですが、うちはメニューそのものを考えるところからすべて託しています。だから、まずは「良いかなと思いついたものがあれば、すぐつくっていいよ」と伝えています。減価率は考えず、まず思ったものをつくってみて、お客さんに食べてもらって、細かいことはその後、考えようと。その方が、働くひともより能動的になれるわけです。
お店をこんなふうに使えますか? って、小さな提案がお客さんからあれば、すぐに日付を決めてしまいます。お客さんが手づくりで素敵な雑貨をつくっていることがわかったら、明日からここで売ろう! 場所代はいらないからと言います。そうやってひとの能動性をグッと高めてあげるんです。

このような「能動性」は普通は、なかなか発露しにくい。しかし、この「能動性」は2人にとって、とても大切な要素である。

———喫茶ランドリーでは、他人の能動性を、拒否せず必ず受けとめることにしています。怪我したり命に関わることがなければ、大丈夫。こういうことを繰り返していると、どんどんひとが能動性を暴発していくことが「なんて素晴らしいんだ」と全部が愛おしく見えてきて。イベントごとを実現させて喜ばれているひとも、子どもの描いた1本の線も、みんな等価にすばらしく見えてくるんです。

この能動性への気づきは、先に述べた、田中さんがひとりでつくった無料でコーヒーを振る舞う屋台や「場」をつくるなかで得たことだった。そしてまた、そのなかでより実感した田中さんと大西さんのセオリーがある。

———ギブ&テイクって言われることがありますが、ここで必要なのはギブだけなんです。そこで直感的な見返りも、巡り巡った見返りも求めない。対価の大きさには関わらず、求めると結局は「私は報われない」というふうになってしまう。そうじゃなくて、心地よくみんなが与えるだけっていう状況が、大きな意味で目指す世界のひとつです。

しかし、なんでも受け入れていたら、「これはちょっと……」となるようなことが起こったりしないのだろうか。

———いくら「ここはよかったらなんでもやってね」って言っても、それに許可をする私たちとお客さんは、お店のひととお客さんではなく、1人1人の人間同士の関係が根底にあります。その関係の上でのコミュニケーションが、あらゆるエラーを回収していきます。友達同士やお隣さんの人間関係だったら、間違いが起きても「ごめんね」「大丈夫、大丈夫!」ってなるじゃないですか。それと同じです。

つまり、やりたいことやできることを実現できるような空間づくりと、どう声をかけるのかというコミュニケーション、さらにそれをやりたいひとが現れたときに、暴発することも含めて受けとめること。これがここに引かれた補助線の正体のようだ。

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店外の鉢植えやカフェメニューはスタッフ各々が日々育んでくださっている。ステンドグラスの皿は、ご近所さんの手づくりのもの。持ってきてくれた日から販売を始めたが、素敵だったのでお金を受けるレジの皿としても使われている