アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#81
2020.02

自分でつくる公共 グランドレベル=1階の試み

東京・森下1 「私設公民館」喫茶ランドリー
1)「どんなひとにも、自由なくつろぎ」の場を

喫茶ランドリーがあるのは、東京の東、森下駅(都営新宿線・大江戸線)あたりの下町エリア。北側に一駅移った両国駅周辺は両国国技館や吉良邸をはじめとした武家屋敷跡などがあって江戸情緒が漂い、観光客でにぎわう。一方、南側の清澄白河駅付近は、コーヒーロースターやクラフトマンによるショップが、5年ほど前から増えてきて注目され続けている。ところがこの両駅の中間の森下エリアは、小さな町工場や倉庫の間に新築マンションが立ち並ぶばかりで、これといった特徴がない。

森下駅から喫茶ランドリーに向かう道中には、喫茶店や飲食店はほとんど見当たらず、通勤時間を過ぎているせいかあまり人通りもなく閑散としている。本当にこんなところにひとが集まる場があるのだろうかと思っていると、「どんなひとにも自由なくつろぎ」と書かれた白い看板が見えた。店構えも思ったよりもこぢんまりしていて、意外な感じがした。

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入ると、開店時間すぐのせいかお客さんは1人だけ。入口近くの大きな木のテーブルで男性がパソコンをしている。その奥にはかつてどこかの喫茶店で使っていたような家具でしつらえられた2人掛けや4人掛けの席。さらに奥が”まちの家事室”で、銀色の作業テーブルとドラム式洗濯機やミシンなどがある。1台は洗濯中のようで勢いよく回っているが、男性は構わないようすで黙々と作業しており、シュールな光景に面食らってしまう。

入り口近くに大きなノートを発見。開いてみると、いろんなひとがこの店を訪れた感想を書いている。旅先の喫茶店やユースホステルでよく見たやつだと、懐かしい気持ちになる。国内だけでなく、中国、台湾、韓国からも訪れるひとがいるようだ。さらにはたくさんの名刺、名刺、名刺。コミュニティカフェのオーナー、まちづくりNPO代表、地域おこし協力隊といった肩書きが並ぶ。なんと神戸市長のものまであった。いったいこの店の何がこんなにひとをひきつけるのだろうか。

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さらに店内を見回してみる。お店を入って左手にあるレジやキッチンの奥あたりは、ヨーロッパ調。外国風の壁紙で囲まれ、中央にはウッディーな大きな机。天井からは大きなアンティークのシャンデリアがぶら下がっている。かと思えば、入り口のすぐ左にある半地下のスペース「モグラ席」は昭和の喫茶店風。ひとつの店のなかに近未来風、外国の邸宅風、昭和レトロ風といろんなテイストの席がある。しかもレジ前は物販スペースになっていて、手づくり雑貨や帽子、中古レコードなども置いてあり、いい意味で「ゆるい」空間。
正直、来る前は話題になっていると聞いていたので、どんなにオシャレなところなのだろうか、店のひとやお客さんと積極的に交流しないといけないのだろうか、と少し緊張していた。だけど、このゆるい空間のおかげで肩の力が抜けた。

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訪れるひとは、好きな席で、好きなように時間を過ごす。何時間いても大丈夫 / お客さんたちがつくった雑貨などに関しては、マージンを一切取らないで販売している