アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#79
2019.12

農からさぐる、地域の文化

前編 ふれあい朝市の20年 京都・大原
1)独自の文化を重ねてきた、京都の深奥

出町柳駅から車で20分。 “京都の街中” といわれるエリアから、そう遠くはない場所に大原は位置する。
高野川に沿って、上流の方へと車で走ると、窓の外がみるみると、里山の風景に変わっていくことに驚くだろう。
大原は京都市左京区に属する。左京区は南北に長く、北は久多や花背、南は岡崎まで広大なエリアを含んでいるのだ。

三千院をはじめ、寂光院や勝林院、来迎院といった、たくさんの寺院が点在しており、一般的には観光地として知られている。歴史のなかでは、平安時代以降、寂光院に閑居した平清盛の娘、建礼門院徳子ほか、歌人で随筆家の鴨長明、惟喬親王など、都から逃れた人々の隠棲地として描かれてきた。苔が生い茂る寺院のようすはしっとりとしていて情緒があり、どこか秘密めいていて、いかにも隠棲にはぴったりな雰囲気だ。

俗世を逃れて静かに暮らしたいという、やんごとなき人たちの想いを今も守っているのか、大原はのどかである。山々に囲まれて、あちこちに田んぼや畑があり、まばらに民家が建っている。高層ビルはもちろん、チェーン展開の飲食店や、ショッピングモールのようなものも見当たらない。まるで時が止まっているかのようだ。この地には、平安時代から住む一族もいると聞く。

緑豊かでありながら、“田舎”とは一線を画す、あくまで歴史を重ねてきた京都(みやこ)の一部なのだという、底知れない深さが、この里には感じられる。

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山に囲まれた景色は四季折々の美しさがある。整地された畑も印象に残る / 清々しい杉木立。三千院のあたりは水と緑にあふれる / いきいきとした苔もこの風土ならでは