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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#79
2019.12

農からさぐる、地域の文化

京都・大原1 ふれあい朝市の20年
4)朝市がもたらしたもの
「京都・大原創生の会」宮﨑良三さん(2)

朝市を始めてみたことで、思いもよらない副産物があったという。「若者」である。

———大学卒の若者から大原で農業をしたいと申し入れが出てきたんですよ。これは予想外でした。朝市を見て、ここなら農業ができると、思ってくれたんだと思います。「こんな環境、景観のところで農業や子育てをして一生暮らしたい」って。

2006年から、大原で有機無農薬の野菜づくりを始めた「つくだ農園」渡辺雄人さんをはじめ、畑をやりながら、農家レストランを営む「わっぱ堂」細江聡さん、広い畑で多種栽培をしている「音吹畑」の高田潤一朗さんなどが、当時移住してきた若者たちである。「わっぱ堂」や「音吹畑」は、現在、朝市にも出店している。朝市の立ち上げメンバーの世代を「第1世代」とすると、現在30代後半から40代の彼らは「第2世代」と言えるだろう。

———現在13〜15名の移住者が、大原で農業をしています。我々としては、農地もお世話せんならんし、本当に定住してくれるのかっていう不安もありました。でも誰もリタイアせずに、この地で頑張ってくれています。彼らを迎え入れてこそ、次の農業の後継者ができるわけです。農家には後継者がいないから、迎え入れないと農地が有り余ってしまいますから。

さらに、最近は朝市のメンバーに20代から30代前半の「第3世代」も増えてきた。ただし、彼らのほとんどは、大原に住んでいるわけではない。畑を借りることができても、住む家を紹介してもらえるかどうかはまた別問題である。そこには持ち主の想いなどが、複雑に絡んでいるからだ。

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「第2世代」に当たる細江聡さん(わっぱ堂)、高田潤一朗さん(左・音吹畑)

第2世代に当たる細江聡さん(わっぱ堂)/  高田潤一朗さん(左・音吹畑)

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「第3世代」にあたる小川みつるさん(むすび農園)、原田さん夫妻(はらだ農園)。原田さんたちは手づくりの冊子も制作している

第3世代にあたる小川億さん(むすひ農園)/ 原田亮佑さん、愛さん夫妻(はらだ農園)。原田さんたちは手づくりの冊子も制作している

もうひとつ、宮﨑さんが嬉しく思っているのは、京都の料理人が多く通ってくれるようになったことである。

———毎週来てくれるシェフに「なんでわざわざ大原まで、こんな朝市に来てくれはるんですか?」って不躾な質問をしてみたら、「大原の野菜は味が濃い。おいしい」って言うんですよ。量がありませんから「店の上客にお出しするんです」って。我々もそれで、多少自信めいた話になりましてね。大原の野菜をブランド化して売り出していこうっていうようなことに繋がっていったんです。料理人さんがここを贔屓にしてくれはるという点でも、朝市をやった効果が非常にあったと感じています。我々としても鼻が高いというか、頑張り甲斐がありましたね。

宮﨑さんたちが目指したように、大原野菜は「ブランド化」できているように思える。個性ある野菜を求める料理人にとっても、つくったひとの顔が見える安全安心な野菜を求める一般の人々にとっても、大原の野菜は魅力的なのである。

移動販売式の八百屋「Gg’s」の角谷香織さんは、大原の野菜を買い付けに、毎週朝市に訪れている業者の1人だ。角谷さんは “お得意様” のもとへ一軒一軒まわって対話をしながら野菜を売る「振り売り」と呼ばれる、京都の伝統的な販売方法にこだわっている。

角谷香織さん

角谷香織さん

角谷さんは上賀茂や伏見、山科、太秦など、京都市内の他の地域の野菜も仕入れているが、なかでも大原には足繁く通っている。

———大原は、有機栽培を仕事として行っている若手の農家さんが増えていて、すごく元気です。チャレンジャーな農家さんも多くて、新しいことを取り入れやすいですね。

「新しいことを取り入れやすい」理由は、新しい野菜、変わった野菜を楽しんで使ってくれる料理人が頻繁に訪れていることが大きい。

———野菜って日々のことだから、市街地から近いというのは重要なポイントです。わたしは京都市内で育ちましたが、車でちょっと走れば畑があるっていうことに初めはすごくびっくりしたんですけど、それがとても魅力的に思えたんです。シェフたちが日常的に訪れやすいから、「都市の庭」といったところでしょうか。農家さんとコミュニケーションがとれて、農業をすごく身近に感じられる素敵な場所だなと感じています。

市街地ではなく、田舎でもない。大原は、行きたい時に、ひょいと行ける「都市の庭」という言い方がしっくりくる。京都の奥に広がる「都市の裏庭」であるかもしれない。