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アネモメトリ -風の手帖-

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#313

かもめの水兵さんのキルト—海から山へ—
― 北海道函館市

1枚のパッチワークキルトがあります。
かつて「かもめの水兵さん」というスーベニアショップに飾られていたものでした。
ベイエリアにあったそのお店は、1911年に函館郵便局として建てられた古いレンガ造りの中にありました。老朽化に伴い取り壊しの声もありましたが、1980年代に起こったまちづくり運動から、1983年に「ユニオンスクエア」として再生し、多くのテナントが入居、イベントホールとしても親しまれました。

秀子さんのキルト

キルトは1メートル四方の布に縫い合わせたもの。その細やかな針づかいに手仕事の味わいを感じる

かつてユニオンスクエア2階にあった「かもめの水兵さん」

ユニオンスクエア明治館発行のフリーペーパー『’85 THE U.S.MAIL NO2』 当時の施設の様子がよく分かります

ユニオンスクエア明治館発行の機関誌『’85 THE U.S.MAIL』
当時の施設の様子がよく分かります

2階フロアの「かもめの水兵さん」で、83年から93年まで工芸品などの販売・接客を手掛けていた秀子さんが仕事のかたわら、つくりあげたのがこのキルトです。
入居仲間の布地屋さんから譲り受けたサンプル帳から一枚一枚を無駄が出ないように縫い合わせたものです。いまでこそ褪せて落ち着いた色合いになりましたが、バブル期の華やかさを思い起こさせる柄が並びます。若い女性が憧れたブランドの服に使われたような花柄もあります。目の詰まった質感からはその時代の濃密さが伝わります。

机に向かう秀子さん 撮影:1993年頃

1993年頃、机に向かう秀子さん

屋根裏のような一角で小柄な秀子さんが過ごす姿からは、にぎわいの中にあっても芯のある豊かな時間を感じます。秀子さんは、お店の前を通る人が「♪かもめの水兵さん♪」と親しみを込めて口ずさむのもよく耳にしたそうです。
1階、吹き抜けのホールでは、演奏会や大道芸人の舞踊が行われていました。その熱気や歓声が2階まで立ちのぼっていたことでしょう。昭和という時代の人々が肌を寄せ合うような距離感がそこにあったのではないでしょうか。
ユニオンスクエア明治館は2026年現在、「はこだて明治館」と名称を変更し、シーズンごとの賑わいを見せています。ガラス製品の専門店、オルゴール工房、ドラッグストア、整体サロン、貸衣装店などが入り、かつて秀子さんが働いていた2階フロアには、テディべアミュージアムがありました。

ギャラリーのショーケースで通りがかりの人を迎えるキルト

ギャラリーのショーケースで道行く人を迎える編みぐるみとキルト

秀子さんのキルトは今、所を変えて函館山中腹のギャラリーにあります。テーブルかけとして、ぞうの編みぐるみと一緒に窓から街を見下ろしています。
お客さまがギャラリーのドアを開けるたびにちりりんと鈴が鳴り、風が吹き込みます。
かもめの水兵さんのキルトは、その風に潮の香りを懐かしんでいるのかもしれません。

参考
『’85 THE U.S.MAIL NO2』ユニオンスクエア明治館ユニオンクラブ、1985年1月1日。

「ギリヤーク尼ヶ崎 『鬼の踊り』を故郷で “大道”こそ芸の原点 真剣勝負で観客に挑む」『北海道新聞 はこだて市内版』1986年11月30日、朝刊。

茂木治編『資料 函館西部地区Ⅰ港側部 2010』、2010年、pp.12-14。

札幌交響楽団「60年を共に歩んだ仲間たち 札幌交響楽団60年史デジタルアーカイブ」、https://60th.sso.or.jp/past_member/(2026年4月17日閲覧)。

はこだて明治館、https://www.hakodate-factory.com/meijikan/(2026年4月19日閲覧)。

(後藤夏江)