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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#75
2019.08

まちを耕すアート 台湾・台南

2 場の履歴を生かす
2)土地の独自性を表現につなげる
写真専門ギャラリー「海馬迴 光畫館」李旭彬さん2

ギャラリーのテーマは、美学・芸術哲学・社会学など多様な学問を通して「写真の可能性」を探ることのできる場所。写真の展覧会のほか、撮影や暗室での現像など技術的なことを学ぶ教室も随時開催している。

———1624年に開府した台南は、建城400年の節目をまもなく迎えようとしています。400年目にあたる2024年に向けて昨年よりビエンナーレ形式で始まった台南市主催の台南国際撮影節(台南写真フェスティバル)で、わたしはキュレーターとして関わりながら、展示と地域の関わりについて考えています。
この展覧会で心がけていることは、2014年から始めた“台南学”を生かす展示方法です。台南という土地に積み重ねられた記憶や物語・脈絡をほり起こしながら表現とつなげていく試みで、例えば台南のまちに数多く点在する廟文化は、その最たるモチーフといえます。

前号にも出てきたが、台湾の「廟」文化は台湾の市井をいきる人々の共同記憶であり、古くからの台湾社会システムの根底を担ってきたといってもいい。
台湾で一番多いエスニックグループは、日本時代以前に中国福建地方あたりから移住してきた漢民族だが、文化的な差異や開拓・灌漑利権のために、おなじ福建地方でも異なる地域出身者同士はおおきく衝突した。その最も顕著なのが、福建地方の泉州と漳州、それぞれの出身者同士の戦い(「泉漳械鬥」と呼ばれる)である。
対立するグループは、衝突によって当地の開拓や居住を勝ち取ると、まずそこに自分たちが信仰する神様の廟を建立し、廟を中心に各コミュニティが発達する。その廟の祭礼を取り仕切る組織が、地域の自治・自衛を担うことで黒社会が醸成され、折々の選挙における票田として機能するなど廟はいまだ台湾社会で大きな影響力をもっている。このように現代の台湾社会の成り立ちについて理解するための1つの大きな要素である廟が、台南には数多く存在する。

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李さんは、こうした廟文化のエッセンスを写真フェスティバルの展示に取り入れることで、地域と写真アートが有機的につながるのではないかと考える。例えば神様の誕生日などで、まちなかのいくつもの廟が共同して祭儀を執り行う例。台湾のお祭りは神様たちが練り歩いて各廟をまわるパレード形式で行われるため、離れた場所や異なるコミュニティの廟同士が、お祭りの日だけはパレードで結ばれる。

———これにヒントを得たのが、まちなかいろんなスペースを活用して市内各地で同時に展示を繰り広げる方法です。ネクストアート台南もそうした展示の試みのひとつといえます。
再来年の展示のために考えているのが、日本時代に区画整備された台南市中心のロータリーから戦後アメリカ軍の基地があった場所までつながっている1本の道路を時間軸に見立て、その通り沿いにある幾つかの展示会場で時間軸に沿ったテーマの写真作品の展示を行う、といったことです。

まちを歩きながらアートを見ることで、歴史の脈絡が立体的にみえてくる、この話を聞いて興奮した。台南のまち全体が、そのままアートを表現する有機的なキャンバスとなる。なんてこのまちらしい、スリリングな計画だろうか。しかしこういったまち全体をつかった大がかりな展示をどのように実現しているのだろう。

———市が観光に力を入れ始めた10年ほど前から、行政側でもアートを使ってまちの文化水準をあげようという動きが出てきました。台南市の文化局はわたしたちアーティストの言葉に大きな理解を示してくれ、ワークショップやアーティスト・イン・レジデンスなどの取り組みへも積極的な支援を行っています

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中心地より少し離れた住宅街の中にある「MUMU GALLERY」もネクストアート台南の会場になっていた。ここでは、受賞作家の黃彥勳(ファン・イェンシュン)と招待作家の高俊宏(ガオ・ジュンホン)による「廃墟」をテーマに前者は油絵、後者は写真と鉛筆画によるインスタレーションとそれぞれ異なる表現方法を使った展示が行われていた。市街地から少し離れた場所のギャラリーも、こうして台南アートの有機的繋がりのなかに組み込まれる

中心地より少し離れた住宅街のなかにある「MUMU GALLERY」もネクストアート台南の会場になっていた。ここでは、受賞作家の黃彥勳(ファン・イェンシュン)と招待作家の高俊宏(ガオ・ジュンホン)による「廃墟」をテーマに前者は油絵、後者は写真と鉛筆画によるインスタレーションとそれぞれ異なる表現方法を使った展示が行われていた。市街地から少し離れた場所のギャラリーも、こうして台南アートの有機的つながりのなかに組み込まれる