アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#75
2019.08

まちを耕すアート 台湾・台南

2 場の履歴を生かす
4)民間とのゆるやかな協力体制
台南市文化局副局長・周雅菁さん2

自治体が主導してアートを育てる取り組みは、日本でもこれまで少なからず行われてきたが、さまざまな難しさを孕んでおり成功例となるのはなかなか厳しい現実がある。それがどうやらここ台南では、自治体と民間とがうまく作用しあって成果を出していることが見えてきた。しかしこれには台湾、さらには台南という土地の歴史的な影響も大きいように思う。

戦後になって、中国での国共内戦に負けた国民党政府が台湾に臨時政府を遷したのが1949年。それから長い間、台湾は国民党の独裁政権下に置かれ戒厳令期を経験する。しかし、80年代に戒厳令が解除され、ゆるやかに民主化が進んだときにできたのが、台湾の独立した主権をめざす「民主進歩党」(民進党)であった。現在の台湾は二大政党制的に政治が動いており、現在は民進党の蔡英文総統が一期目を務めているが、もともと民進党員には台南や高雄など南部の出身者が多いため、長いあいだ民進党の牙城となってきた。2000年に民進党より出馬し、初の非国民党系の台湾総統となった陳水扁も台南の出身だが、1997年の民主化以降、台南の市長は全て民進党出身者が占めている。
さらに民進党をつくった中心メンバーは、もともと戒厳令下で民主化のために活動していた人権弁護士や運動家であったりと、進歩的な考え方を持つひとが多い。そのため現蔡政権も、中国に対して独立した台湾の主権を主張するほか、国内的にも「脱原発」「同性婚合法化」といったリベラルな政策を積極的に推し進めている。

アートには、既存の社会システムや枠からの逸脱によって新しい概念を生み出そうとしてきた成り立ちがあるので、社会的にはどちらかといえば進歩的な性質を帯びやすい。また台湾のアーティストには、環境・社会・歴史など政治的な主張やスタンスと密接に関わる表現が日本よりもずっと多いので、台南市の場合も自治体とアーティストとの親和性が高く、お互いを補い合い理解しあえる良好な関係が築かれているのかもしれない。
自治体の首長の政党が変わると、局長職以下の顔ぶれがすべて総入れ替えとなるため、政局によって政策が場当たり的になってしまうのは台湾の地方政治でよく見られる現象だ。しかし台南市の場合は民主化以降より今まで民進党の所属する政治家が市長を歴任しているため、文化的な側面についても筋の通った政策を息長く続けてきたことが、気骨のあるアーティストや事業者を呼び込み、だんだんと実りを見せているといえるかもしれない。

———例えばネクストアート台南では賞金は出ませんが(※賞金の代わりに展示活動費として4万元≒15万円ほどが支給される)、そのぶん協賛しているギャラリーがその後のアーティストの活動発表の場を提供するなど、市と民間でゆるやかな協力体制が築かれており、これは台南のギャラリーと実力のある若手アーティストとを結びつけることにもつながっています。またネクストアート台南の会期中には、台南市の主催で開催エリア内のギャラリーからギャラリーへとガイドツアーを実施したり、それに合わせて路地案内を行ったりもします。台南の魅力はなんといっても、路地にありますよね。

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周さんは、現代美術のギャラリー「B.B.ART」(次章参照)をしばしば訪れるという。こうして行政とギャラリーが密に連携を取っている。この日は2階のカフェで関係者と話し込んでおられた