アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#75
2019.08

まちを耕すアート 台湾・台南

2 場の履歴を生かす
5)台南の履歴を語る空間
「都市芸術工作室 UrbanART Studio」杜昭賢さん

そもそも台南には、昔から前衛的な文化表現が発生する磁場がある。例えば、日本時代の1933(昭和8)年に成立したモダニズム詩人団体「風車詩社」は、日本語教育を受け日本への留学経験もある台南のエリート文学青年たちが、日本の西脇順三郎やフランスのジャン・コクトー、またシュールレアリスムのような思想運動に影響を受けながら、日本語で新しい台湾文学をつくりだそうとする試みだったが、その「風車詩社」が生まれたのも台南である(この詩人団体については、2015年にはドキュメンタリー作品がつくられ、2017年には日本でも『日曜日の散歩者 わすれられた台湾詩人たち』という邦題で公開された)。
そして台湾の現代美術のムーブメントもまた、実は台南から始まったという。そのことについて「絶対空間」の黄さんに訊ねたさい、紹介してくれたのが杜昭賢(トゥ・ジェイミー、以下ジェイミー)さんだった。
台南の現代美術ムーブメントは3つの世代に分かれるそうで、90年代はじめに地元アーティストが始めたのが第1期、1993年にジェイミーさんが始めた「新生態芸術環境(New Phase Art Space)」というアートスペースを舞台とするのが第2期で、ジェイミーさんは第2期目の中心的存在だ。ちなみに「絶対空間」の黄さんや「海馬迴 光畫館」の李さんは、第3
期にあたる。

ジェイミー・杜さん

杜昭賢さん

「お昼ごちそうするから、一緒に食べましょう!」
現在は市内で「加力畫廊(inart・space)」「B.B.ART」という2軒の現代美術ギャラリーと、「都市芸術工作室UrbanART Studio」というアートのPR会社を経営し、日々忙しくしているジェイミーさんを訪ねると、ランチに誘いだしてくれた。

「台南は日本の京都によく似てる……。そう言われるけど、どう思う?」
『アネモメトリ』が京都の大学のメディアということを知って、ジェイミーさんがこんな質問を投げかけてきた。筆者も大学から京都に10年ほど暮らしたことがあり、馴染みの深い土地である。だから、すぐに質問に答えることができた。
「似ています。まずは
まちなかに廟があるところ。京都にも、いたるところに大小の寺社がたくさんあります、そしてもうひとつ」
ここからは半分冗談交じりではあるが、
「あとは、台南人も京都人も、世界中でいちばん自分の土地が大好きで最高の場所だと思っているところ、そっくり!」
と伝えると、ジェイミーさんは手を叩いて大笑いしながら言った。
「たしかに! そうね! 台南はわたしのプライドだもの」
そうしているうちに、どんどん料理が運ばれてきて丸いテーブルの上を満たした。小籠包に蒸し魚にビーフンにホルモン煮込み。豪勢な食事とジェイミーさんの暖かい笑顔で心もお腹も満たされたあとは、ジェイミーさんの話をじっくり伺うため、彼女の経営するB.B.ARTに場所をうつした。
B.B.ARTは、日本時代に銀行だった建物をリノベーションした現代美術ギャラリーだ。建物自体にまず見どころがとても多い。戦後しばらくアメリカ軍が台南に進駐していた時期には、アメリカ軍の招待所として使われたということで、3階に上がると床にはうっすらとアメリカ軍の国籍マークがペイントされた跡が残っていた。現代美術ギャラリーというと白一色のイメージが強いが、ジェイミーさんのB.B.ARTは、建物それ自体が台南の履歴を訪れた者に話しかけてくれるような空間である。

次号では、台南の現代アートシーンの中心的存在のひとりである、ジェイミーさんがこれまで辿ってきた「台南アートをめぐる冒険記」を紹介しながら、台南における「アートを育む土壌を耕す」作業がいかなるものか、どこに向かうのかについて、さらに一歩進んで考えたいと思う。
(次号へつづく)

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B.B.ARTの2階部分。取材時には台湾のアーティストのほか、日本のアーティストによるセラミックの作品なども展示されていた / 日本時代に銀行だった建築で、金庫跡もそのまま残されている / 建築当時からそのままの装飾的な窓ガラスも美しい

(番外編)B.B.ART近辺

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B.B.ARTがあるのは台南で最も古くから栄えた民権路。この通り沿いにはおいしい老舗店がたくさんある。そのひとつ、1871(清朝同治10)年に創立した老舗の饅頭店「萬川號」の肉まん / 台南名物・鍋焼きうどんは店によってスープへのこだわりがみられる。化学調味料(味精と呼ばれる)無添加のこのお店は、ハマグリや鶏などいろんな素材からダシが取られてとてもやさしい味

海馬迴 光畫館
http://www.fotoaura.com.tw/

台南市文化局
https://culture.tainan.gov.tw/index.php

B.B.ART
https://www.facebook.com/BBART.Tainan

取材・文:栖来 ひかり(すみき・ひかり)
台湾在住ライター。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。日本の各媒体に台湾事情を寄稿している。著書に『在台灣尋找Y字路/台湾、Y字路さがし』(2017年、玉山社)『山口,西京都的古城之美:走入日本與台灣交錯的時空之旅』(幸福文化/2018)『台湾と山口をつなぐ旅』(西日本出版社/2018)がある。 個人ブログ:『台北物語~taipei story

写真:高橋 宗正(たかはし・むねまさ)
1980年生まれ。写真家。『スカイフィッシュ』(2010)、『津波、写真、それから』(2014)、『石をつむ』(2015)、『Birds on the Heads / Bodies in the Dark』(2016)。2010年、AKAAKAにて個展「スカイフィッシュ」を開催。2002年、「キヤノン写真新世紀」優秀賞を写真ユニットSABAにて受賞。2008年、「littlemoreBCCKS第1回写真集公募展」リトルモア賞受賞。