アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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2013.02

おもてなしの精神で広がるまち 神山

前編 芸術家とのつながりがもたらすもの
1)まちを会場に行われる
神山アーティスト・イン・レジデンス2012

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取材にうかがったのは、アーティストたちの滞在も終盤、できあがった作品の展覧会が始まって2日目。四方を山に囲まれたまちに入って、目に入って来たのは、美しい川や味のある商店街の古いまち並み。すだちの無人販売所も味わい深く、軒先で餅を焼く匂いなど、静かなまちにはゆったりとした時間と気配が感じられた。

今年のレジデンス・アーティストは3人。ひとりめ、ベトナムからやって来たツー・キム・ヴーさん。阿波和紙と墨を使ったドローイングを、照明器具と共に作品に落とし込み、カフェの2階に展示していた。地図を思わせるドローイングは、自然のなか、まちのなかでの彼女の身体感覚を落とし込んだかのような、繊細で美しい作品となっていた。もともと地図を使ったドローイングをイメージしていたが、このまちに滞在中に住人の方々の家に招待され、もてなしてもらったことで日本家屋のことを知り、家のなか、という要素も作品に取り込んだのだという。ツーさん曰く「日本の家は、明かりや襖、障子の重なり、部屋の仕切り方が新鮮で面白い」。世界各地のレジデンス施設を渡り歩いてきた彼女に、神山でのレジデンスに関してうかがうと「ヨーロッパだと、家を渡されてあとはよろしく、ということがあるけど、アジアでは色々なことをサポートしてくれることが多いように感じる。神山では制作や照明のサポート等、これまでにないほどいろんなひとがサポートしてくれた」。
ちなみに、このカフェは粟カフェといい、オーナー・中山竜二さんが、高松市から神山に移住して2011年にオープンしたお店。神山の名産品である梅の味に惹かれ、自家製のシロップやジャムを販売しているほか、神山の特産品を使ったドレッシングをまちのひとと共に開発している。
滞在制作するアーティストたちはまちのさまざまな建物や施設、自然景観を生かして展示を行う。なかでも大きな会場としては、昭和4年に建てられ、昭和30年代半ばまでは、演劇や地域の伝統芸能である人形浄瑠璃などが上演されていた劇場・寄井座がある。グリ―ンバレーの『寄井座復活プロジェクト』によって復活した、展示会場として赴き深いスポット・寄井座にもツーさんのドローイングをスパイラル状のインスタレーション化した展示がなされていた。
また、まちの中心部にある大粟山には過去の神山アーティスト・イン・レジデンスで制作されたランドアート作品を見ることができるが、この山を舞台に、フィンランド出身のウルリカ・ヤンソンさんはコマ撮りのアニメーションを制作。神山の農作物や山を歩いていると目に入るもの、自分が滞在したときに出たゴミ等を素材にすることで、身近な資源に目を向けてほしい、というメッセージをコミカルに描いた。コマ撮りの撮影は、スタッフやボランティアの方々と一緒につくりあげたのだという。映像の上映とともに、映像作品中に使用したものをインスタレーションとして、旧酒蔵の名西酒造酒蔵にて会場の照明を落として見せていた。
日本人作家、出月秀明さんの展示は、取材時にはまだ制作中。(後の12月に完成。写真展も行われた)「隠された図書館」と題した、地域の住民のみが、学校卒業、結婚、仕事を退職した時などの3回人生の節目の時にだけ本を収める事ができる小さな図書館を新築した。本を収めた住民のみが利用できる記憶を共有・思い出すための図書館だ。つきっきりの大工さんとの密なやりとりとともに制作していたのが印象的だった。この作品は共同体を通して見えて来たイメージをかたちにしたものだという。
ツーさんは、神山に住むひとたちの家の間取りを描くことで、住人の暮らしを、短期滞在者としての俯瞰的な目線でもって関係づけた。ウルリカさんは農作物や何気なく身近にあるものを用いて、神山を描くなど、いずれの作家も、地域の性質を作品に落とし込んでいたのが印象的だった。まちでのコミュニケーションやまちの制度、コミュニティの構造等をストレートに表現したものも見受けられたが、それがレジデンスにおける作品制作の醍醐味でもあると思う。

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ツー・キム・ヴー《Miniture of Space》

ツー・キム・ヴー《Miniture of Space》

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ウルリカ・ヤンソン《Living forest, living culture》(撮影:小西啓三)

ウルリカ・ヤンソン《Living forest, living culture》(撮影:小西啓三)

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出月秀明《隠された図書館》(撮影:小西啓三)

出月秀明《隠された図書館》(撮影:小西啓三)