2)三方よしの「マイギャラリー制度」
友人をもてなすための宿は、やがて地元の産業を担う木彫刻家との協働につながっていく。
そのきっかけもまた、山川さんのふだんの生活にあった。地元で活躍する木彫刻家の田中孝明さんとの出会いである。
———もともとインテリアに使おうと、月餅(中国発祥のお菓子)の木型をつくれる職人さんを探していたんです。そのとき、たまたま知人から紹介されたのが、孝明さんでした。井波彫刻には、「井波彫刻師」と「井波彫刻家」と呼ばれる人がいて。井波彫刻師は、神社仏閣とかに使われる超絶技巧をひたすら極めていく。
一方で、彫刻の技術でアートの世界に飛び込んでいく人もいる。それが井波彫刻家で、孝明さんはアーティストだったんです。「この人の作品はすごい、この人の作品を体験できる宿にしたい!」というところから、コンセプトがバーッとできあがっていきました。
尊敬できる同世代の木彫刻家と出会い、彼の作品を宿に取り入れるところからBed and Craftは始まった。そこから、井波の他の作家たちとも知り合っていく。彼らのものづくりにふれ、何ができるかを日々話し合うようにもなった。職人のいるまちで、彼らと協働したいと思っていた山川さんにとっては、望んでいた生活でもあっただろう。
このように、Bed and Craftはコンセプトありきで始まったのではなく、山川さんがまちや作家とかかわるなかで方向性が固まっていった。それが「マイギャラリー制度」という形に実を結ぶ。
宿に作品を合わせるのではなく、作品に合わせた宿を共につくること。1棟につき作家は1人で、設計段階からかかわってもらう。それは、井波ならではの創作を生かした取り組みであるとともに、作家の世界観を表現する場でもある。
———木彫の装飾品を生活に取り入れるのは、イメージしづらいと思うんです。ですから、作品を宿で体験してもらうってすごく新しいな、と。こういう飾り方があるんだったらうちにもほしいとか、これだったらうちの本棚に置けるな、とか。彫刻と一緒に寝るって体験をほぼみなさんしたことがないので(笑)。そして、その作品のみならず、作家さんのファンになってくれたら、と思っています。
Bed and Craftでは、どの作家がフィーチャーされた宿に泊まるか、それを選ぶことも楽しみのひとつ。そうして出会った作家や作品は、ギャラリーや店などで目にするのとは違う喜びをもたらしてくれる。
そして、宿泊客はそれを購入することもできる。こうした仕組みは、地元の作家や職人たちとかかわるなかで着想を得たという。
———井波彫刻は少量の完全オーダー生産。注文が入って初めてつくり始める。でも、注文がなくても、ふだんから作家さんたちは手を動かしているんです。そうすると、買い手のいない作品がずっと倉庫に眠ることになる。それってどこかで見てもらえるチャンスがないと買ってもらえないよな、と。
だったら宿をギャラリーとして提供すればいい。宿泊客にはもちろん、展示会を開いて見にきてもらってもいい。売れたら新しい作品を入れてもらって。そうすれば、リピーターのお客さんにも「前と作品が違う!」と喜んでいただける。三方よしだなって。泊まる人も、運営している僕たちも、作家さんも、3者がすごくハッピーな関係になれればと思って、ずっとやってきていますね。お互いに応援し合うというか、支え合う関係が自然とできあがっていった感じがしますね。
また、宿泊費の一部は作家たちに還元している。作家たちが新しい道具や材料の購入費に当て、次の創作につなげてもらえれば、と山川さんは考えている。