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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#111
2022.08

食と農の循環をつくりなおす

「小さいものと、小さいものをつなぐ。」徳島・神山町1
3)神山の味を受け継ぎ、次の世代につなぐ

春はよもぎ仕事、初夏は梅仕事、夏は阿波晩茶……フードハブ・加工チームの山田友美さんは、季節ごとに旬の作物を加工した商品をつくっている。取材をした日には「よもぎほたパウンド」を焼いていた。蒸しパンに似た徳島の郷土菓子「ほたようかん」をイメージして生まれたパウンドケーキで、よもぎがたっぷり練り込まれている。

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よもぎ団子にも使う、茎を取り除いて湯がいたよもぎの葉を、たっぷり練りこんだ「よもぎほたパウンド」

フードハブは、神山の食文化を受け継ぎ、その味をつないでいこうとしている。加工チームのメンバーが中心になり、70〜80代のお母さんたちと一緒に手仕事をする。特に、お世話になっているのが下分加工所で活動する、生活改善グループのお母さんたちだ。

生活改善グループの起源は、古くは明治時代に農村生活を改善する社会教育事業としてはじまった生活改善運動にまでさかのぼる。戦後になると、農林省(当時)が各都道府県に生活改良普及員を配置。地域ごとに生活改善グループが結成され、住まいや食、家計簿の記帳などに取り組んだ。

神山で、各地区の生活改善グループの活動が活発になったのは1955年以降のこと。1975年には、神山生活改善グループ連絡協議会が結成された。1978年(昭和53)には、神山町内で古くから伝わる特産物を活かした家庭料理や行事食などをまとめた書籍『神山の味』を発刊。さまざまな料理コンクールなども盛んに開かれ、多くの女性たちが参加していたという。

ところが、高度経済成長期以降、女性たちのライフスタイルにも変化が起きた。まちを出て暮らす人、町外で働く人が増えるなか、生活改善グループに参加する若い世代は減っていった。現在のメンバーは70〜80代になり、このままではお母さんたちの味が失われてしまうかもしれない。フードハブの加工チームは、お母さんたちの味をつないでいこうとしている。

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山田友美さん(加工チーム)。お菓子屋さんとパン屋さんで働いていた経験を生かして、フードハブの「おやつ係」に。2020年冬から加工品の製造を担当している

———実は、よもぎ団子は「丸めるところはいいけど、レシピは“企業秘密”やから教えられん。」と最初は言われていたんです。でも、一緒に団子を丸めながら、お母さんたちとの関係性を築いていくなかで、「フードハブはレシピがほしいのではなく、味をつなぎたいんだ」ということを理解していただけて。今は、一緒に作業することがお互いの楽しみになっていて、すごくいい感じでやれるようになりました。

春にはよもぎ仕事、初夏には梅仕事、真夏から秋にかけては茶摘みして湯がいた茶葉を乳酸発酵させて天日で干す阿波晩茶づくりをする。加工チームの山田友美さんは、お母さんたちの目分量や勘でつくられてきたレシピを、データ化して記録に残す作業にも取り組んでいる。

旬にたくさん採れる野菜や果物を保存したり、行事のために仕込んだりする加工品は、このまちの暮らしの知恵であり文化である。口に入れると、思い出す季節や行事があり、お母さんたちのにぎやかなおしゃべりと鮮やかな手の動きが蘇る。山田さんたちもまた、お母さんたちと一緒に作業する時間とともに、味を継いでいこうとしている。フードハブは、時間を超えて「小さいものと、小さいものをつなぐ」場としても機能しはじめている。

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1978(昭和53)年に、神山町生活改善大学および生活改善グループ連絡協議会が中心になって編集した『神山の味』。神山独自の生活文化のなかで育まれた伝統の味、行事食のレシピやコラムが掲載されている。フードハブはこの本を再販、店頭・オンラインで販売している

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元は給食センターだった場所を、下分生活改善グループのみなさんが加工場として受け継いだ。いまは、フードハブ加工チームが受け継いでいこうとしている。取材した日も、生活改善グループのお母さんたちが仕込みの作業に来ていて、和気藹々とおしゃべりする声が響いていた

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つなぐ農園の特別栽培米を粗く挽いた米粉と米ぬかでつくる焼き菓子「カミヤマメイト」は、神山の農家さんがつくっていた米ぬかを混ぜて焼くおやつをヒントに開発。当初は下分加工所でお母さんたちと一緒に焼いていた。米油と有機豆乳でまとめた生地の滋味深さ、きび糖のやさしい甘み、ざくざくした食感のコンビネーションが絶妙で食べ飽きない。しかも、どんどん新しい味が出るのでつい買ってしまう / 上段右端の「焼肉のタレ」は阿川地区のお母さんたちのレシピでつくっている。ドレッシングやジャムなどはフードハブのオリジナル加工品。かま屋で使っている調味料などとともに、かまパン&ストアで販売している