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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#110
2022.07

道後温泉アートプロジェクト 10年の取り組み

3 地域×アートの課題と実践を探る
1)活性化プロジェクト最終年度の取り組み
国際クラフトフェア(仮称) 工芸で道後から、四国、台湾までつなぐ
スパイラル/ 株式会社ワコールアートセンター 松田朋春さん

2021年から3カ年計画で始まった「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」は、1年目を地熱づくりの年と位置づけ、クリエイティブステイや関係人口サミットによって道後と外のつながりに着目した。2年目の道後オンセナート2022は、アート展示のほか文学をまちにちりばめた「マチコトバ」やパフォーマンスイベントによる祝祭感が2023年2月まで続く。そして2023年度は、新たにクラフトという切り口を加えた「国際クラフトフェア(仮称)」を開催し、愛媛をはじめとする四国のものづくりを道後温泉から発信しようと考えている。

道後温泉はクラフトの生産地ではない。にもかかわらずクラフトに注目したのは、商店街の意向が大きかったという。以前より商店街からは、お土産でアートと一緒になにかできないかという声があがっていた。「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」をプロデュースするスパイラル/株式会社ワコールアートセンターの松田朋春さんはこう語る。

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松田朋春さん

———道後は買い物をする魅力が少ないんです。でも温泉だけでなく付加価値を上げていかないと、まちの客の単価が上がっていかない。それにはクラフトというテーマがいいのでは、というのがまちの総意です。ただ、道後にはつくり手がいない。このまちでクラフトをやる意味をちゃんと考える必要がありました。そこで道後温泉を四国全体のコンテンポラリークラフトのショーケースに位置づけました。見せて売って発信していく、四国のクラフトに貢献する道後温泉という考え方です。来年のフェアに向けて、四国中のクラフトとつながろうとしています。

松山から少し足を伸ばせば、愛媛県の砥部焼や伊予水引、高知の和紙や高松の木工芸など、四国にはすぐれた手仕事が多数ある。買って使える作品から、より作家性を貫いたものまで、多様に富んだクラフトの世界を魅力的に発信する工夫が今検討されている。

———クラフトはアートみたいにスターがいないでしょう。プロモーションが効きづらいし、イベントの内容はアートのように簡単じゃない。最近はアート×工芸をテーマにした展覧会も随分出ていますが、その流れを踏んで、とんがったものはちゃんと見せようと思ってます。工芸的インスタレーションも出てくると思います。

2014年の道後オンセナートで、ホテル茶玻瑠の一室を作品化した愛媛県出身の石本藤雄さんは、フィンランドの「マリメッコ」のテキスタイルデザイナーとして、また老舗陶器メーカー「アラビア」の陶芸家として長年フィンランドで活動していたが、2020年帰国し、現在は松山市に居を構えて創作に打ち込んでいる。「愛媛県と縁の切れていたデザイナーと、もう一度縁を結び直したのはよかった」と松田さん。石本さんの存在は、インターナショナルなクラフト作家のローカルなものづくりという点で興味深い。来年のクラフトフェアではなんらかのかたちでかかわってもらう予定だという。そしてインバウンドの復活が期待される2023年に向けて、つながりは海外にも広がる。

———台湾のモノづくりがすごく良くて、元々台湾とは松山市と交流事業を行ったりと道後温泉との繋がりも深いんです。インバウンドの主軸でもあったので、ものづくりを通して台湾ともう一筋繋がりたいと思っています。

道後の外にいるつくり手たちとつながることは、2021年度のクリエイティブステイが目指した取り組みの延長でもある。現在の道後の中心人物たちは70代。50代ですら若手といわれる道後温泉から、新しいことを発信するには、外とのつながりがますます重要になる。

———道後は商人のまちです。アートプロジェクトが続いていても、アートは売り物として捉えられてきたところもある。そして価値を自分たちでつくるという発想はあまりなかった。だからつくり手とつながることが大事なんです。そして、それを変えていくのは若い次の世代だと思っています。

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石本さんデザインのプロダクトを、地元のクリエイティブチームNINO(後述)が監修したホテル茶玻瑠の客室