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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#102
2021.11

森づくりとともに 飛生芸術祭という夢を重ねる

1 アートの森で「物語」を創造する 北海道・白老町

北海道の千歳空港から車で南西の室蘭方面へ向かって約1時間。飛生芸術祭がひらかれている白老町は、アイヌ文化の中心地のひとつとして知られ、昨年できた「ウポポイ(国立アイヌ民族博物館を含む民族共生象徴空間)」が立地するまちだ。
芸術祭の会場は、市街地からさらに車で北西へ約20分の森のなかにある。のどかに草を食む白老牛の牧場や採石場などがあるほかは、人影のない道をひたすら進んで行く。未舗装の道路も続き、砂埃を巻き上げながら車はでこぼこな道を走る。
「こんなところで本当に芸術祭をやっているのだろうか」
初めて来る人がそう感じはじめるころ、「飛生アートコミュニティー」の青看板、そして赤屋根の小さな木造校舎が現れる。
廃校となった小学校の跡地を利用したアーティストたちの共同アトリエ「飛生アートコミュニティー」。そして、年に一度の飛生芸術祭の会場だ。
廃校活用のため、1986年に白老町の要請で始まった飛生アートコミュニティーは、その2世代目が中心となって再興し、2009年から芸術祭を毎年開催している。
「森づくり」を中心に置き、かかわるアーティストが長い歳月をかけてこの場でしか生まれない表現を探りながら、さまざまな協働を生むコミュニティが育ってきている。その10年超の取り組みには、集客イベントと化し、すでに飽和した感のある地域芸術祭のあり方を立ち止まって考えるヒントもありそうだ。
2016年以降、昨年以外は毎年この芸術祭を訪れてきた筆者が、3号にわたって飛生芸術祭を素描する。今号では芸術祭のレポートとともに、飛生の森を育み、また森で育まれてきた創作や表現について紹介したい。

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木造平屋の旧校舎。素朴でどこか懐かしい風情 / 小学校だったころの痕跡に、飛生芸術祭にかかわる作家や参加者たちが新しくつくったものが溶けこみ、新しい景色をつくる / 森づくりのシンボルともいえる出口のゲート / 吾羽麻観樺が札幌市立円山小学校の児童生徒412名と共作した『夜の国の光のオアシス』。音楽は山田祐伸

木造平屋の旧校舎。素朴でどこか懐かしい風情 / 小学校だったころの痕跡に、飛生芸術祭にかかわる作家や参加者たちが新しくつくったものが溶けこみ、新しい景色をつくる / 森づくりのシンボルともいえる出口のゲート / 飛生に集う子どもたちが、アーティストやミュージシャンと一緒に制作した動画作品が森につくられた小さな映画館で上映された