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アネモメトリ -風の手帖-

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#320

アートへの抜け道
― 北海道函館市

函館市の観光名所に五稜郭(ごりょうかく)公園があります。市電を使っての最寄駅は五稜郭公園前駅ですが、公園までは歩いて20分ほどの距離があります。
電停からビルや商店が建ち並ぶ広い通りの一本内側に入ると、小さな公園が現れます。そこからは電車通り、行啓(ぎょうけい)通り、五稜郭公園に向かう3本の歩道がのびています。公園の名前こそ本町児童公園ですが、遊具は鉄棒とブランコのみ。大きな屋根のあるあずまやや、ベンチがあり、近くで働くひとたちがひと息つくため立ち寄るような、大人びた雰囲気のある公園です。

本町児童公園。ここを起点に東に電車通り、北西に五稜郭公園、南西に行啓通り

本町児童公園。ここを起点に南に電車通り、北東に五稜郭公園、西に行啓通りへと抜けることができる

行啓通りへ抜ける道

行啓通りへ抜ける道

五稜郭電停に向かう道

五稜郭電停へ抜ける道

周囲の道路が灰色のアスファルトに覆われているのに対し、この公園からのびる歩道だけは両端をレンガに縁どられた茶色の足当たりの良い路面です。周囲には樹木が植えられ、その時期の花々が咲いています。道幅1メートル程の両わきにはマンションやアパート、家屋が点在しており、そこに暮らす人々の息づかいが聞こえくるような、不思議な空間でもあります。

筆者が作成した、函館市本町18・22番地付近における、現在の番地の区画と旧番地の区画を示す概略図と、道路整備事業の年表。概略図では、現在の番地の区画を黄色で示し、旧番地の区画を赤の波線で示した。対照すると、各方面に抜ける道が開かれていったことがわかる

筆者が作成した、函館市本町18・22番地付近における、現在の番地の区画と旧番地の区画を示す概略図と、道路整備事業の年表。概略図では、現在の番地の区画を黄色で示し、旧番地の区画を赤の波線で示した。対照すると、各方面に抜ける道が開かれていったことがわかる

この道が誕生したいきさつを調べてみました。1980年初頭から、副都心として位置づけられた五稜郭地区(本町)の道路整備事業が始まりました。同じ頃商店と住宅が混在する地域の整備事業も進められました。この歩道はその一環としてつくられたようです。それまでは古い家々が隙間なく建っていたために、居住する人々は電車通りに出る際も大きく回り道をしなくてはならなかったそうです。また、オフィス街、繁華街として発展していくなかで、子どもが安心して遊べる場所が必要になりました。この整備事業によって、子どもたちには公園を、住民には利便性の高い道路をもたらすことができたのです。もちろん、当事者の利害もからまり事業は難航したと想像できますが、現在、スーツケースを引いた観光客も行き来するこの道はすっかり地域になじんだ存在です。

今回は、五稜郭公園方向へ抜けてみましょう。

五稜郭公園方向へ抜ける道

五稜郭公園方向へ抜ける道

進んでいく。壁面に描かれた黄色のひまわりの花と屋根と階段の緑色が木々に溶け込んでいる

進んでいく。壁面に描かれた黄色のひまわりの花と屋根と階段の緑色が木々に溶け込んでいる

さらに進む。奥に印象的なアーチが見える。アーチは個人宅のもの

さらに進む。奥に印象的なアーチが見える。アーチは個人宅のもの

終点に差し掛かる。正面に五稜郭タワーが見える。右に進むと五稜郭病院、函館美術館に通じる道がある

終点に差し掛かる。正面に五稜郭タワーが見える。右に進むと五稜郭病院、函館美術館に通じる道がある

歩いて10分ほどのこの道は、五稜郭公園そばにある美術館への抜け道でもあります。電車を降りて、雑踏のなかを歩くのも楽しいですが、この道で自然に触れながら芸術への期待を膨らませ、帰りはその余韻に浸りながら歩くのもいいかもしれません。
英語の「Art」ということばは芸術のみならず、技術や技法という意味も含まれるといます(註1)。この木々の緑とレンガの茶色が美しく調和した抜け道はアートへといざなう道であり、この道自体も粋をこらしたアートと呼べるのではないでしょうか。

本町児童公園からほど近く、1996年に函館市民の寄付によって設立された映画館・シネマアイリス。ここもアートな場所である

本町児童公園からほど近く、1996年に函館市民の寄付によって設立された映画館・シネマアイリス。ここもアートな場所である

(註1)
大辻都編著・篠原学著『アートとしての論述入門』京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎、2017年、p.155。

参考
「住みよい街づくりのために 五稜郭土地区画整理事業 本町の一部で今年度から実施」『市政はこだて』函館市、昭和56年11月号、1987年。

整備事業パンフレット『函館市五稜郭地区 シンボルロード 親しみと潤いのある街づくり』北海道函館土木現業所、発行年不明。

『昭和62年3月10日施行函館市住居表示新旧対照表(本町の一部)』函館市、1987年。

函館市史編さん室編『函館市史 年表編』函館市、2007年。

シネマアイリス「函館市民映画館シネマアイリス30周年を記念して、イベントを多数開催します!」https://www.cinemairis.com/topics/30th-Iv(2026年6月30日閲覧)。

(後藤夏江)