侗族(トン族:中国南部に暮らす少数民族)の女性たちは、幼い頃から母や祖母に教わりながら「花帯(ファーダイ)」と呼ばれる織物を作ります。花帯とは、色鮮やかな木綿糸を織り上げた細長い帯のことで、衣装を飾るだけではなく、人と人とのつながりや祝福を託す大切な手仕事です。一見すると美しい装飾品ですが、その一本一本には、家族への思いと暮らしの記憶が織り込まれています。

侗族の女性が花帯を織る様子
花帯の模様には、山や川、稲穂、鳥、花など、侗族が自然とともに暮らしてきた風景が表現されています。同じ花帯は一本として存在せず、織り手によって色使いや文様の組み合わせが異なります。決まった図案を写すのではなく、受け継がれた技術をもとに、それぞれの感性で織り上げるのが特徴です。完成した花帯は、祭りの日の民族衣装に合わせるだけでなく、結婚や出産など人生の節目に贈り物として用いられます。子どもには健やかな成長を願い、新郎新婦には幸せな家庭を願うなど、一枚の花帯には言葉では伝えきれない祝福が込められています。そのため侗族では、「花帯は贈り物であると同時に、心を結ぶもの」とも考えられています。

大利侗寨(だいり・トンさい:貴州省にある侗族の伝統的な集落)で手織りの花帯を並べる店先
近年、貴州省ではこうした伝統技術を未来へ受け継ぐための取り組みが進められています。地域の非物質文化遺産(中国で制度化された伝統文化の保護制度)の工房では、若い世代が花帯の織り方を学び、学校教育や体験講座を通じて技術を身につける機会も増えています。また、伝統的な花帯は民族衣装だけでなく、バッグの持ち手やブックマーク、アクセサリーなど現代の生活に合わせた製品へと姿を変え、新しい魅力を生み出しています。暮らしの中で受け継がれてきた一本の花帯は、今も人々の手によって織り続けられています。そこには、自然と寄り添いながら生きてきた侗族の知恵と、世代を超えて人と人を結ぶ温かな文化が、静かに息づいているのです。

侗族の花帯に織り込まれた蛇文様(左)と花帯を生かした文創(ぶんそう:文化を現代的な商品やサービスへ展開する文化創意産業)製品(右)
(胡 藝航)


