以前、アイルランドのスポーツが現代にどのように受け継がれているかについてご紹介しましたが、スポーツ以外にもアイルランドでは、独自の文化を残していこうとする動きが国をあげて行われています。その1つがアイルランド語の保護です。
アイルランドの第一公用語はアイルランド語ですが、特に首都ダブリンにいるとアイルランド語の会話を耳にすることはありません。アイルランド人の家庭でさえ、英語でコミュニケーションを取っています。ただ、アイルランド語に触れる機会が全くないかというと、そうではありません。
アイルランドでは公共のサインにアイルランド語が併記されています。そのため、空港内の案内板や道路標識、図書館の開館時間の案内など、あらゆる場所でアイルランド語を目にすることができます。また、バスや電車では、英語の後にアイルランド語でのアナウンスが流れます。
首都ダブリンでは第二公用語の英語が主流ですが、政府は国内のいくつかのエリアを「ゲルタハト地区」と呼ばれるアイルランド語使用地区に制定し、その保護に努めています。この地域では日常的にアイルランド語を使用する住民に対し、経済的な援助を行ってきました。
また他にも、アイルランドでは小・中学校でアイルランド語の授業があり、この国で義務教育を受けた人なら、アイルランド語の読み書きは一通り出来るそうです。普段の生活で使う必要のないアイルランド語をなぜ学ぶのか。それは英国に支配され続け、自らの伝統や文化を否定され続けたからに他なりません。
アイルランド語を学ぶことについて、アイルランド人は次のように考えています。「ただ語学を学んだというよりも、語学を通して、アイルランドとは何かを学んだと思っている。確かに実用的な言語ではないけれど、もしアイルランド語を学校で学ばなければ、アイルランドの文化や伝統の一部は消えてしまうだろうね」
アイルランド人の友人のひとりは、アイルランド語はとても詩的で美しい言語だと教えてくれました。その美しいアイルランド語が、時代のニーズという目先の利益に惑わされることなく、「アイルランドらしさ」を伝える1つのツールとして残っていくことを願っています。
(佐谷由希子)