3)過程のオリジナリティ
BAICA(大分・竹細工)
展覧会場をあらためてざっと眺めてみる。城谷さんが手がけたプロダクトは全体に気負いがなく、どこかほっとさせてくれるところがある。ただし、「城谷耕生のデザイン」という一貫した個性はさほど強くないようにも思える。
しかし、それこそが城谷さんのデザインなのである。
———デザイナーはスタイルやオリジナリティを持つべき、と日本では教えられたのですが、アッキーレ・カスティリオーニはそれは絶対ダメだと。デザイナーは依頼してくれたメーカー、提案する職人や社会の要望にあわせてデザインするのが仕事で、見た目が同じになるような仕事はありえない、と教わったんです。
どういうアプローチでどういうことを考えたかっていうオリジナリティは大事。でも、フォルムにはオリジナリティを求めるべきじゃない、と。
「最高のフォルム」や「オリジナリティ」を求めるのではないデザインのありかた。
「自分のデザインをつくるのではなく、若い職人とグループで一緒にやりたい」という意思は、工芸とデザインをむすびつけることにもつながっていく。
大分県別府の竹細工職人たちとの取り組みはその代表例といえる。
「BAICA」は2005年、竹細工の若手職人4人と城谷さんで立ち上げた工房である。行政や企業に請われたのではなく、「ともに竹工業の未来をひらいていきたい」という思いから自発的に始めたことだった。外国製品との価格競争や後継者不足など、伝統産業の現場が抱える課題を前に、城谷さんはユニークなカリキュラムを試みていく。昔のアーカイヴにある製品を実際につくってみる、鉄や焼きものなど異業種の工場や工房を見学する、熟練した竹細工職人の指導を受ける……。一見遠回りにも思える幅広い学びから、別府の風土を生かした技術が立ち上がった。温泉の蒸気を生かした竹の立体成型である。竹細工の造形の可能性を広げるだけでなく、ふちを編むことにかかる労力や設備面のコストがかからなくなる。その技術をもちいて、さまざまな課題を解決できるものとして、照明器具「APTENIA」が誕生した。若き職人とデザイナーがともに生み出した作品は、別府竹細工の伝統を未来につなぐかたちともいえる。
一方で、竹を細工する以前の一次加工に着目した作品もユニークだ。照明器具「TRONCO」は竹を大胆にカットしただけに見える。ただし、このかたちが可能なのは手のかかる下処理が施さされているからだ。多くの場合、竹はここから細かく裂いて使われる。そうではなく、竹の美しさそのものをかたちにした試みもまた、このプロジェクトらしく思える。
BAICAの取り組みから15年が過ぎた。職人たちも40代となり、弟子が数人いる立場だという。このとき得た感性や思考はきっと、なんらかのかたちで次代を担う世代に引き継がれていくだろう。