4)集団で創作する
COCCIO(福岡・小石原焼)
2部は「人と人をつなぐ」がテーマである。そこにはプロジェクトのメンバーはもちろん、つくり手と地域の人々、あるいは過去の職人と未来の使い手など、さまざまな関係性が含まれるようにも受け取れる。
多様な関係性をつなぎ、支える存在として、城谷さんが重視したのは言葉だった。
プロジェクトには目的があって、解決すべき課題もある。そのためのリサーチも必要になってくる。かかわるメンバーでそのことを共有し、思考を深めていくためには、スケッチや図面などをつくる前に、まずは言葉ありきなのだった。
「COCCIO」は福岡県東峰村の小石原焼の窯元3軒、九州大学の池田美奈子研究室とともに進めたプロジェクトである。小石原焼の高い技術をもちいて現代の生活にあった器をつくる。その過程はまさに言葉を重ねながら構築していくものだった。
調査研究を行なったのは池田美奈子研究室だ。ものがあふれている時代に、あえてものをつくる意味。食べる、使うという行為の根本にあるもの。器の起源。そうした本質的なことだけでなく、具体的には器に盛る料理の歴史、使いやすいかたちや大きさ、さらに食べるシチュエーションなども詳細に調べ、話を聞いていく。彼らの膨大なリサーチをもとに、この地域で続けられている轆轤に向かって器づくりに取り組む、というものだった。
そもそも、城谷さんはどんなものをつくるにしても、デザインに至る過程に時間をかける。徹底して調べ尽くし、実験を試みる。それだけの厚みが必要な理由を城谷さんはこう説明していた。
———徹底して調べるのは、僕がイタリアで習ったように、考え得る資料をすべて出してから「ここにないもので、生み出す必要のあるもの」を考えることをしたかったからです。
器が完成するまで、要した期間は約4年。膨大な過程から浮かび上がってきたのは、小石原にある土や釉薬を使い、轆轤をまわして、少量ながら長くつくっていけるもの。そして、食卓を囲む人々をつなぎ、心を満たす食事につながるものであった。
COCCIOを代表する「Quartetto」はそんなふうに誕生した。4枚の皿が重なったユニークなかたちは、食卓に大輪の花がひらくようでもある。集団創作のスタイルで完成された器はまさに「デザイナー・職人・学生などの人々の思考や体験の結集が形を決定したプロダクト」(学芸員川口さん)と言えよう。
自分のデザインをつくろうとは思わない、という城谷さんの言葉を思い起こす。みんなでつくりたい、そこでできることを最大限サポートしたいと考えた彼にとって、この仕事は大きな結節点だったといえるだろう。