アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#96
2021.05

未来をまなざすデザイン

1 城谷耕生の残したもの 長崎・雲仙市小浜

2)職人にデザイナーのセンスと感性を
TIPO(長崎・波佐見焼)2

TIPOは波佐見焼の若手継承者とのプロジェクトで生み出された。地域の伝統工芸にかかわりたいと思っていた城谷さんにとって、その始まりの仕事でもあった。
デザイナーと職人で行う伝統工芸の取り組み。そこで果たすべき役割を城谷さんは自覚していた。

———エンツォ・マーリふうに言うと「職人にデザイナーのセンスを持ってもらう、感覚・感性を持ってもらう」ことです。デザイナーは職人にデザインのことを教えるんですね。

マーリの「デザイナーが職人を育てる」という思想を城谷さんは地元に近い地域で実践していく。職人たちの多くは良い技術を持っていても、自分たちだけでは生かしきれない状況にあるからだ。

———職人さんは、100年ほど前はふつうに仕事していれば良いものがつくれた。住宅でも昔の家はきれいですよね。100年前に家を建てるときに、屋根瓦はスペイン風、床はテラコッタを貼ってみようなんて誰も思わなかったじゃないですか。基本的に屋根瓦はあそこの屋根瓦屋さん、壁はこの左官屋さん、と決まっていた。左官屋さんも漆喰を輸入したりしないし、そこにあるものでつくってしまえばバランスのいいものが自然にできていっていた。
それが、どんどん世界が広がって情報が交錯してくると、選択肢が出てくる。そうなると、何が基準かわからなくなる。この時代、美しい家をつくろうと思ったら、かなりきちんと選んでいかないときれいにならない。工務店の言うがままにしたら、サイディングボードの偽レンガのプリントしたようなのとか、プラスチックの壁みたいになってしまうんです。
料理もそうですよね。昔はその土地のものを一番美味しい時期に食べるのが当たり前で、それしかできなかった。だから昔の料理人は流通している素材を買えば、それが地元の旬のものだった。今の料理人はセンスを研ぎ澄ませて、この野菜は本当に今が旬かとか、自分が選んでいかないといけない。だから職人さんにも美的な感覚や、さまざまな情報をふくめた知性が必要になってきているんです。でも、それをいきなり職人さんに求めることは難しい。

地元・長崎でのプロジェクト開始にあたって、陶磁器を手がけるのは初めてだった城谷さんは、その製造工程を知るところから始めた。仕事の依頼先でもあった長崎県窯業技術センターに研修生として通い、ひととおり学んでから職人たちと向き合ったのである。
城谷さんがここで取り組んだのは、デザインのかたちを提案することだけではない。新しい技術も取り入れながら、職人たちがデザインを展開できるようになることだった。職人たちが感性を磨きつつ、自立していくための「城谷スクール」と呼べるかもしれない。

TIPO以外の2003年制作の作品

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長崎県三川内焼の伝統技術「透かし彫り」を現代的な造形に生かすというテーマで取り組んだ作品。シェードは白磁だが厚手にした。「ガラスを模倣せずとも磁器らしい照明器具ができるのではないか」と考えたからだという / GYOKU ペンダントランプ2003年、AURA COLLECTION、生産地:三川内(長崎)

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自身が設計したレストランより、オリジナルグラスの要望を受けてデザインしたグラス。量産型(金属型)をもちいた初めての例。東洋佐々木ガラスの高い技術によって、なるべく垂直に、薄くという要望が実現した / フィンガーグラス 2003年、株式会社ティーエルエス、生産地:東京