アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#87
2020.08

これからの経済と流通のかたち 市やマルシェ編

1 京都・西陣 環の市
1)市、マーケット、マルシェの現在

はじめに、名称のことと、これまでの流れにふれておきたい。
市、マーケット、マルシェとさまざまな呼び名があるが、ほぼ同義と思っていい。
ここ数年、にわかに「マルシェ」が増えている。フランス語で「マーケット」にあたる言葉だが、この名称が使われるようになった経緯には、農林水産省の助成事業「マルシェ・ジャポン・プロジェクト」が関わっている。2009年、生産者と消費者をつなぐ場の創出を目的として立ち上げられた都市住民参加型のプロジェクトで、このとき助成を受けた全国8都市、11団体がマルシェを始めたのだった。
一方で、このプロジェクトとは別に、生産者と消費者をつなぐ場をつくりたいという動きもさかんになった。若い世代を中心に、地域で始まったマルシェは、まったくのインディペンデントな場合もあれば、住民や行政とかかわりながら続けられているものもある。
このような経緯で、マルシェと名のつくものは、昔ながらの市やマーケットとは違う「新しさ」を込めている印象を受ける。ただし、新たに立ち上げられたものでも、「市」「マーケット」としているケースもあり、一概にはいえない。

本誌はこれまで、高知の日曜市、松本のクラフトフェアまつもと大原ふれあい朝市など、さまざまな市を取り上げてきた。それぞれの市は、開催されるまちの歴史や文化と密接に結びついている。
今号と次号で取り上げる京都・西陣の2つの市は、それらとは少しありかたが違う。よそからやってきたアーティストや料理人夫妻が、新旧入り交じる伝統的な地域で、まちに敬意を払いつつ、まちになじんでいく。そこで得た、ひととのつながりやまちとのかかわりを映し出すような「市」を始めたのである。
自宅兼事務所で開催する、衣食住全般の「環の市」と、飲食店による、食に特化した「オモテ市」。
前者は6年、後者は7年と、ともに長く継続している。距離的には徒歩数分と近く、出店者も一部共通しているが、方向性はそれぞれ異なる。今号では環の市を見ていきたい。

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