1) 「美の基準」が息づくまち
真鶴町は、日本で初めて「美」を掲げた自治体である。「美の条例」をつくり、そのなかで「美の基準」を打ち出した。
「美」といっても、世界遺産的な建造物や、絶景などのわかりやすい何かがあるわけではない。山と海に囲まれた豊かな自然、どこか懐かしい生活の景色のような、何気ない風景を美しいものとして条例化し、守ってきたのだ。
「美の条例」が制定されたのは1993年。そこにふくまれる『美の基準』は冊子としてまとめられている。行政の取り組みらしからぬ芸術的な内容で、読むものの想像力をかきたてる。
冊子の最初の見開きにはこう謳ってある。
美の基準
私たちは
1「場所」を尊重することにより その歴史、文化、風土を町や建築の各部に
2「格づけ」それら各部の
3「尺度」のつながりを持って、青い海、輝く森、といった自然、美しい建物の部分の共演による
4「調和」の創造を図る。それらは真鶴町の大地、生活が生み出す
5「材料」に育まれ
6「装飾と芸術」といった、人々に深い慈愛や楽しみをもたらす 真鶴町独自の質をもつものたちに支えられ 町共通の誇りとして
7「コミュニティ」を守り育てるための権利、義務、自由を活きづかせる これらの全体は真鶴町の人々、町並、自然の美しい
8「眺め」に抱擁されるであろう。
これら8つの観点は、まちで長い年月をかけてつくりあげられてきたものを、町民が共有できるように「ルール」化したものだ。とはいえ強制力もないし、高さ○メートルまで、というような数値的な基準を示すのでもない。「こうでなければならない」という厳格な決まりごとは何ひとつなく、むしろ、「だったらどうしたらいいのか」と、読み手が豊かに考えられる手引きのようでもある。
真鶴を歩いてみて印象に残るのは、端々に息づく自然や景観のおおらかさであり、それらが気持ちよくつながって、大きなまとまりとしてまちがある、ということだ。「美の基準」では、そうしたまちのありようを「静かな背戸」「少し見える庭」「さわれる花」など、詩的な言葉でしめしてある。これらの言葉を手がかりに、真鶴ではまちがつくられてきた。