アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#86
2020.07

小さいこと、美しいこと

3 「美の基準」とともに、まちの物語を編みつづける  神奈川・真鶴町
1) 「美の基準」が息づくまち

真鶴町は、日本で初めて「美」を掲げた自治体である。「美の条例」をつくり、そのなかで「美の基準」を打ち出した。
「美」といっても、世界遺産的な建造物や、絶景などのわかりやすい何かがあるわけではない。山と海に囲まれた豊かな自然、どこか懐かしい生活の景色のような、何気ない風景を美しいものとして条例化し、守ってきたのだ。

「美の条例」が制定されたのは1993年。そこにふくまれる『美の基準』は冊子としてまとめられている。行政の取り組みらしからぬ芸術的な内容で、読むものの想像力をかきたてる。
冊子の最初の見開きにはこう謳ってある。

美の基準 
私たちは
1「場所」を尊重することにより その歴史、文化、風土を町や建築の各部に
2「格づけ」それら各部の
3「尺度」のつながりを持って、青い海、輝く森、といった自然、美しい建物の部分の共演による
4「調和」の創造を図る。それらは真鶴町の大地、生活が生み出す
5「材料」に育まれ 
6「装飾と芸術」といった、人々に深い慈愛や楽しみをもたらす 真鶴町独自の質をもつものたちに支えられ 町共通の誇りとして 
7「コミュニティ」を守り育てるための権利、義務、自由を活きづかせる これらの全体は真鶴町の人々、町並、自然の美しい 
8「眺め」に抱擁されるであろう。

これら8つの観点は、まちで長い年月をかけてつくりあげられてきたものを、町民が共有できるように「ルール」化したものだ。とはいえ制力もないし、高さ○メートルまで、というような数値的な基準を示すのでもない。「こうでなければならない」という厳格な決まりごとは何ひとつなく、むしろ、「だったらどうしたらいいのか」と、読み手が豊かに考えられる手引きのようでもある。

真鶴を歩いてみて印象に残るのは、端々に息づく自然や景観のおおらかさであり、それらが気持ちよくつながって、大きなまとまりとしてまちがある、ということだ。「美の基準」では、そうしたまちのありようを「静かな背戸」「少し見える庭」「さわれる花」など、詩的な言葉でしめしてある。これらの言葉を手がかりに、真鶴ではまちがつくられてきた。

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『美の基準』は真鶴町の発行。1992年初版、2015年で第4版と版を重ね、読み継がれている